八仙飯店之人肉饅頭 ― マカオを震撼させた一家惨殺事件、その血塗られた全貌と“人肉レストラン”の呪い

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営業当時の「八仙飯店」 伊斯堅 – 伊斯堅. 《香港驚人罪案錄》. 集友社出版公司. 1993, パブリック・ドメイン, リンクによる

 1980年代、まだポルトガル領だった頃のマカオ。その片隅にある小さな大衆食堂「八仙飯店」で、犯罪史に刻まれる、あまりにもおぞましい事件が起きた。それは、強欲と狂気が生み出した悪夢のような物語であり、人々の心に深い傷跡と、消えることのないおぞましい都市伝説を残した。

八仙飯店と、借金に溺れた“影の男”

「八仙飯店」は、鄭林(ゼン・リン)一家が経営する、地元で評判のレストランだった。道教における伝説の仙人「八仙」の名を冠したこの店は、繁栄の象徴あり、一家の勤勉さの証でもあった。

 しかし、その平穏な日々の裏で、一つの闇が静かに蠢いていた。その男の名は、黄志恒(ウォン・チーハン)。店の常連客であり、重度のギャンブル依存症者だった。伝えられるところによれば、ある夜、黄は店の経営者である鄭林とその仲間たちとの賭博で大勝ちし、鄭林は黄に対して約18万パタカ(現在の価値で数千万円)もの負債を抱えることになった。

 しかし、鄭林はこの支払いを拒否。1年が経過しても借金は一向に返済されなかった。約束を反故にされた黄は、鄭林に対する憎悪を募らせ、ついに自らの手で「取り立てる」という、人の道を踏み外す決断を下す。

悪魔が扉を叩いた夜 ― 一家惨殺の惨劇

 1985年8月4日の夜、黄は鄭林に借金の返済を迫るため、八仙飯店を訪れた。彼はまず、配達員を装って店のドアを開けさせると、中にいた鄭林一家を脅迫。手元にあったビールの瓶を割り、それを武器に鄭林の息子を人質に取り、一家全員を縛り上げ、口を塞いだ。

 絶望的な状況の中、鄭林は金の支払いを約束した。黄が一時的に警戒を緩め、人質の縄を解こうとした瞬間、鄭林は最後の力を振り絞って抵抗し、助けを求める叫び声を上げた。

 この抵抗に逆上した黄の狂気は、もはや誰にも止められなかった。彼はまず、抵抗した鄭林を惨殺。続いて、恐怖に泣き叫ぶ彼の妻を手元にあった割れた瓶で殺害した。これを皮切りに、黄は口封じのため、その場にいた鄭林の子供たち、母親、姉妹、そして従業員に至るまで、一人、また一人と手にかけた。

 店内にいた9人が惨殺され、悲劇は終わりかと思われた。しかし、黄の狂気はまだ終わらなかった。店内で最後に殺害された鄭林の息子が、死の間際に「大叔母さんが警察に通報するぞ!」と叫んだのだ。

 この言葉を聞いた黄は、口封じのため、一家の親戚である陳珍(鄭林の妻の妹)の家へと向かった。「子供が熱を出した」という卑劣な嘘で彼女を八仙飯店まで誘い出し、最後の犠牲者としてその命を奪った。こうして、合計10人もの尊い命が、一人の男の周到かつ残忍な計画によって奪われたのである。

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画像はUnsplashJr Korpaより

8時間の解体作業と消えた遺体

 犯行後、黄はレストランに鍵をかけ、店内に泊まり込んだ。そして翌朝から、約8時間かけて10人の遺体をバラバラに解体するという、常軌を逸した作業に取り掛かった。身元が判明しないよう、指紋を削ぎ落とすという用意周到さも見せている。

 切断された遺体の一部は、黒いビニール袋に詰められ、数回に分けてゴミ収集車に紛れ込ませて遺棄。残りは海へと捨てられた。この完璧な証拠隠滅により、鄭林一家は文字通り「忽然と姿を消した」のである。

乗っ取られたレストランと海辺に打ち上げられた“体の一部”

 鄭一家が忽然と姿を消した後、黄志恒は何食わぬ顔で八仙飯店の経営を引き継いだ。彼は「一家は本土に引っ越した」と周囲に説明し、新しい店主として振る舞い始めた。

 しかし、惨劇から約1年後の1986年4月、事態は急展開を迎える。鄭林の弟が、兄一家と全く連絡が取れないことを不審に思い、マカオ警察に捜索願の手紙を送ったのだ。その手紙が、警察の本格的な捜査のきっかけとなった。

 警察の捜査線上に黄が浮かび上がるのと時を同じくして、1985年8月8日、マカオのハクサビーチで海水浴客によって複数の人間の手足が発見されていたことが明らかになる。手足の切断面は非常に整っており、何者かが故意に切断したことは明らかだった。警察は、このバラバラの遺体と鄭一家の失踪に関連があると見て、捜査を本格化させた。

 警察が黄を捜査すると、彼が鄭林名義の銀行口座から金を引き出したり、不動産を所有したりしていることが判明。1986年9月28日、黄は本土へ逃亡しようとしたところを逮捕された。

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画像はUnsplashEunsong Joより

“人肉饅頭”伝説の誕生 ― マスコミが煽った恐怖

 逮捕後、黄は当初犯行を否認していたが、拘留中に警察に宛てた手紙の中で自らの罪を告白した。

 しかし、彼の公式な自白の中に「人肉を饅頭にした」という供述は一切なかった。にもかかわらず、10人もの人間が解体され、その遺体のほとんどが見つからないという事件の異常性と、香港・マカオのマスコミによる扇情的な報道が結びつき、「黄は、証拠隠滅のために一家の肉を饅頭にして客に出したのではないか」という、おぞましい都市伝説が生まれてしまったのだ。この伝説はあまりに衝撃的で、後に香港で映画『八仙飯店之人肉饅頭』が製作されるなど、中華圏全体に広まっていった。

犯人の自殺と永遠に閉ざされた真相

 逮捕後、黄は刑務所内で二度の自殺未遂を起こした。そして1986年12月4日、研磨した炭酸飲料の缶の蓋で手首を切り裂き、ついに自らの命を絶った。

 彼は遺書を残しており、その中で自らの無実を主張。「自分は鄭林に金を貸しており、その担保として店を譲り受けただけだ」と訴えていた。しかし、彼の死により、事件の全貌、特に遺体の正確な行方は、永遠に謎となってしまった。黄志恒という怪物が抱えていた心の闇は、誰にも解き明かされることなく、彼と共に葬り去られたのだ。

呪われたレストランと、終わらない怪談

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黒沙環地区の「八仙飯店」店舗跡。 事件後は借主がつかず、勿泊車(駐車禁止)の文字が書かれた板で閉鎖されている。2015年8月22日撮影 Sakaori (talk) – 投稿者自身による著作物, CC 表示 3.0, リンクによる

 事件から数十年が経過した今も、犯行現場となった建物には、不気味な噂が絶えない。

「夜になると、すすり泣く子供の声や、包丁を研ぐような音が聞こえる」
「レストランの中を、青白い人影が横切るのを見た」

 住民たちは、無残に殺された一家の魂が、今もこの地を彷徨い続けているのだと囁く。そして、この場所で新たに商売を始めた者は、誰一人として成功していないという。まるで、土地そのものが呪われているかのように。

 八仙飯店事件は、単なる大量殺人事件ではない。一人の男の強欲が、恐怖と迷信に満ちた、終わることのない怪談を生み出してしまった、現代の悲劇なのである。

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画像は「Amazon」より

参考:Wikipedia、ほか

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