【実話】サンタ追跡作戦、70年の歴史と真実。最強の軍事組織NORADを動かした、ある少女と大佐の物語

2025.12.24 11:30 文＝仲田しんじ

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【実話】サンタ追跡作戦、70年の歴史と真実。最強の軍事組織NORADを動かした、ある少女と大佐の物語の画像1 — イメージ画像　Created with AI image generation

　アメリカとカナダが共同で北米の空の防衛と警戒を行う組織「NORAD（（北アメリカ航空宇宙防衛司令部）」はなぜ毎年、サンタクロースを追跡しているのか――。それは1本の間違い電話からはじまったという。

■1本の間違い電話ではじまったサンタ追跡

　米ソ冷戦が始まると、アメリカ政府は迫り来るソ連のミサイルを監視するための包括的な監視システムを国境を接するカナダと共に構築し、最終的に「NORAD（（北アメリカ航空宇宙防衛司令部）」が発足した。

　敵対勢力の動きだけでなく、攻撃の兆候となる自然現象の観測など、やるべきことは山積みであったNORADの活動だが、1955年、NORADに新たな“任務”が加わった。それはクリスマスの時期におけるサンタクロースの追跡であった。

　現在、その情報は「サンタトラッカー」のウェブサイトで提供されており、クリスマスイブからは25時間にわたり、サンタのソリの具体的な位置と、ソリに残っているプレゼントの数に関する情報を更新している。

　どのようにしてサンタクロースを追跡するという新たな“任務”がNORADに加わったのか。

　1955年11月、シアーズ百貨店はコロラドスプリングスの新聞に広告を掲載し、その広告には子供たちがサンタクロースと電話で話すための電話番号が記載されていた。

　だがこの広告制作に関わった者のミスにより、その電話番号はNORADの前身の組織であるコロラドスプリングスの大陸防空軍司令部（CONAD）の電話番号と一致してしまったのだ。

　ちなみに広告の電話番号は正しかったのだが、電話をかけた子供が番号をどこかで間違えてダイヤルしたという説もあるようだ。この子を除いて関係者は皆すでに亡くなっているため、どっちが真実なのかは永遠に分かりそうもない。

【実話】サンタ追跡作戦、70年の歴史と真実。最強の軍事組織NORADを動かした、ある少女と大佐の物語の画像2 — Image credit: NORAD Public Affairs, Bob Jones (public domain)

　いずれにせよCONADの電話が鳴った時、戦闘作戦部長のハリー・ショウプ大佐は、部下に電話を取らせるのではなく自ら電話に出たのだ。すると幼い女の子の「あなたはサンタさんですか？」という声が聞こえて驚いたという。

　ショウプ大佐は最初はいたずら電話かと思ったが、途中から少女が本気だと気づいたという。困惑したショウプ氏は、彼女の母親と話したいと頼み、この広告のことを知ったという。

　当時のコロラドスプリングスはそれほど大きな都市ではなかったため、広告にCONADの電話番号が記載されていたとしても、電話をかけてくる人はそれほど多くなかったかもしれない。この時期らしい余興としてショウプ大佐はチームに、同様の電話がかかってきた際には電話口でサンタクロース本人のふりをするのではなく、電話をかけてきた子供にサンタクロースの現在地を教えるよう促したのだった。

【実話】サンタ追跡作戦、70年の歴史と真実。最強の軍事組織NORADを動かした、ある少女と大佐の物語の画像3 — イメージ画像　Created with AI image generation

　そこで未確認航空機追跡用のボードに職員がトナカイに引かれたソリの絵を描き、常にサンタクロースの現在地が示されることになった。とんとん拍子に進んむ一連の余興を面白がったシャウプ大佐は好機と捉え、広報担当官のバーニー・オールドフィールド大佐に、サンタクロースのソリを追跡していると報道陣に伝えさせた。

　オールドフィールド大佐は「アメリカ陸軍航空隊、陸軍、海軍、海兵隊航空部隊は、サンタクロースとソリがアメリカを横断する間、クリスマスを信じない人々による攻撃の可能性から、引き続き追跡・警備にあたる」と洒落た説明を行っている。

　翌年、オールドフィールド大佐はシャウプ大佐に、メディアからサンタクロースの追跡をもう一度行うかどうか尋ねられていると伝え、シャウプ大佐はそれに応じたことで毎年恒例の行事となり、NORADに引き継がれた。NORADは時折、さらに盛り上げることがあり、例えば、赤い服を着た男と負傷したトナカイを救出する様子を公開するなど、メディアの話題作りに惜しみなく協力している。

【実話】サンタ追跡作戦、70年の歴史と真実。最強の軍事組織NORADを動かした、ある少女と大佐の物語の画像4 — イメージ画像　Created with AI image generation

　この恒例行事が広まるにつれ、NORADはホットラインを設置し、サンタクロースが来ているかどうか心配する子供たちからの電話にボランティアが応対するようにした。毎年1000人以上のボランティアが電話に出て、一人一人が平均100人の子供たちに直接安心感を与えている。

　サンタクロースが子供全員の家庭に訪れるとすればミサイルよりも速く移動しているはずだが、 NORADがサンタクロースをどのように追跡しているかについての詳細な説明は行われていない。それは“軍事機密”ということになるのだろうか。サンタが自分の家に今どれほど近づいているのか、今年も多くの子供たちが質問の電話をNORADにかけてくるのだろう。