撮影:河西遼
■人が人でなくなる瞬間がわかった
――由佳ちゃんを演じることに苦戦されたとおっしゃっていますが、映画では本当に殺人鬼が憑依したかのような鬼気迫った演技で、妙なリアリティがありました。
土屋 現場が悲惨だったんです(笑)。台本はあるのですが、細かい動きは自分たちのアドリブ。監督に「状況を演じるな」と言われていたので、たとえば、相手をビンタしたり、首を締めたり、なじったりするシーンもアドリブ的な要素が多かったんです。だから「次に何が起きるのか、わからない」という恐怖もありましたし「演じているのに、現実」だったんです。緊迫した撮影が終わると、みんな泣いてしまったり、本気になりすぎて血がのぼりすぎた俳優さんもいました。もちろん、自分が次に何をしでかすのかもわからない。泣いてはいけないシーンで泣いてしまったり(結局そのカットが使用されてますが)、なんとなく紙クズを食べたくなってしまったから、紙を口に入れたり…。
――エッ、由佳ちゃんが、紙クズを口に入れて食べてしまうシーンは土屋さんのアイディアだったのですか?
土屋 はい。なぜか、「食べたい」という感覚が沸き起こったんです。あとから調べると人間が人間でなくなる瞬間、人は硬いものが食べたくなるらしいということがわかって、人狼役を演じていただけにすごく納得しました。また、この映画がクランクインする前、姉に「太陽をバックに私が佇んでいる写真」を撮ってもらったのですが、そのとき「狼男みたいだね」なんて話をしていたんです。それで、私が紙クズを食べるシーンも月がバックで、横を向いていて…なんだかその時撮った写真と似てる絵面なんです。そういうつながりもあって、この映画は「誰が生き残るのか? 誰が死ぬのか?」という猟奇的な部分だけを伝える作品ではなく「人が人でなくなってしまう瞬間=狼になってしまう瞬間」を伝える作品なのかな? と思って改めて腑に落ちました。