麻原彰晃・在日説はなぜ拡散した? 今、総括するオウム真理教

麻原彰晃・在日説はなぜ拡散した?  今、総括するオウム真理教の画像1宝島30 1995年12月(宝島社)

 1995年は「震災」と「オウム」の年として記録される。1月に神戸を巨大地震が襲い、 6,000名を超す死者と4万人を超える負傷者を出した。3月20日には東京の地下鉄でサリンがまかれる事件が発生、13名の死者と、6,000名を超す負傷者を出した。これを機に、メディアの報道は、地震からオウムへとシフトする。

■麻原在日説の浮上

 サリン事件以降、疑惑が集中したオウム真理教の幹部たちは積極的にテレビに出演し、自分たちが「冤罪」であることを、時に他の教団体の名前を出してまで訴えた。しかし、 幹部の逮捕が相次ぎ、5月16日は教祖であった麻原彰晃が逮捕される。この間、メディアの報道はオウム一色に埋め尽くされることになる。その中には真偽があやふやな情報も含まれていた。そのひとつが、麻原彰晃の出自を「在日」とするものである。凶悪な事件が発生すると犯人が在日と規定される――さながら現代のヘイトスピーチにも通じるような現象である。

 麻原彰晃の在日説については、『宝島30』(宝島社)が1995年12月号において作家の中島渉氏が「麻原彰晃・出生の謎」を検証している。中島氏は、麻原の出生地である熊本をはじめ、韓国本土にまで渡り、詳細な調査を行った。


■真実を追った

 内容の解説におよぶ前に『宝島30』という雑誌について説明が必要だろう。『宝島』は現在も月刊誌として存在するが、1973年の創刊から1990年代まではサブカルチャー雑誌として認知されていた。読者層は10代~20代の若者層が中心である。対して『宝島30』は 1993年6月に創刊され、タイトル通り30代の読者を対象とするものであった。ここでは、80年代に『宝島』とともに青春期を過ごしてサブカルチャーの世界にどっぷりと浸かり、政治や社会から遠く離れた者たちに「モノを考えさせる」ような硬派なルポルタージュが多く掲載されていた。そもそも80年代のサブカルチャーが示したものは、政治や社会から離れるような態度こそクールであるというものであった。70年代の『宝島』が取り上げていた、アメリカのサブカルチャーにおけるヒッピームーブメントやニューエイジ思想も、オウム的なるものの源流のひとつである。

 ヨガやチベット仏教のほか、サブカルチャーを含むあらゆるネタがパッチワーク的に組み合わされ、幹部は20~30代、教祖ですら40代というオウム真理教に、『宝島30』は同世代として向き合い、翻弄されることになる。誌面は毎号のようにオウムネタで埋め尽くされ、 オウム騒動から1年を経た1996年6月に休刊してしまう。

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