Tape Painting(Box#4)
■目を凝らして見よ、ただの段ボール箱ではない
最初にこの写真をご覧いただきたい。
段ボール。そう、どこにでもある段ボール箱である。それ以外の何物でもない。こんなものをいつまで眺めていたって仕方がない。取り立てて特筆すべき点など見出せない。強いて言えば、「ガムテープの貼り方がいやに無造作だ」ということくらいだろうか。もう少していねいに貼ってもよさそうなものだ……。
実はこの段ボール、《Tape Painting(Box#4)》というタイトルの、れっきとした美術作品なのだ。作者は水口鉄人という広島県出身の現代美術家。現在、水口自身、東京初となる個展「∞」が浅草橋の「Gallery t」で開催されている。「∞」展では、本作をはじめ、8点にわたる水口の最新作を鑑賞することができる(会期:2015年7月23日~8月12日)。
話を例の段ボール箱に戻そう。現代美術の世界では、段ボール箱のような日用品をそのまま美術空間に展示すること自体、さほど珍しい事例ではない。これまでも、多くの作家によって、バケツやチューブ、便器や石ころなど、ありとあらゆる物が美術館やギャラリーに持ち込まれてきた。彼らはそうした行為を通じて、美術そのものや社会のあり方を問うてきたのである。
だが、水口の場合、これら従来の現代美術的作法とはやや趣きが異なる。この段ボール箱は、単なる段ボール箱ではない。相当な労力をかけて作り込まれたものだ。にわかには信じがたいことだが、段ボールに貼られたガムテープ、何とこのテープの部分が絵具(アクリル絵具)でできているのだ。