ドイツ人は語る「地下アイドル文化は日本の宝。高い道徳性が生んだ文化をなくしてはダメ」

■楽しそうなアイドルたちに楽しそうなファン

 では、なぜそのような楽しい集いができるのでしょうか? 一つは、外国人がアクトレスに感じているものと同様に、「美しい」「カワイイ」女性を対象にそれを「見る」「応援する」楽しさです。しかし、それならばわざわざライブハウスに行ってアイドルを見る必要がありません。では、この「地下アイドル」といわれる人々にあって、「有名な芸能人」に対する感覚ではないものは何でしょうか?

1、「育ててゆく」という感覚

 欧米人は「出来上がったものを摘み取って喜ぶ」ところがあり、私はこれを、狩猟民族的であると思いますが、これに対して日本人は、「育てる」ことで、「自分も一生に成長する」ことを非常に強く望む農耕民族的な性質があります。それだけに「デビュー当初から応援している」とか「デビュー前から注目していた」というような言葉が、アイドルファンの間で「自慢のひとつ」であるような会話として出てくるのです。

2、ファンの自己表現の場になっている

 しかし、もうひとつあります。それは「ファン自身がアイドルに見られていることを喜ぶ」ということです。日本では「参加型アトラクション」が欧米以上に人気ですが、それはアイドル業界でも同じです。「自分が一方的に応援している」のではなく、「アイドルが自分のことを覚えていてくれる」「アイドルが前の会話の続きをしてくれる」ことに対し、満足するのです。彼らの着ているTシャツに、何か所もサインや日付があるのは、まさに、「何回も来ている証拠」をアイドルに見せて、自分をアピールしているからです。それは「アイドルを応援する」のではなく「アイドルに注目されたい」という気持ちのあらわれです。

 この、「アイドルに注目されたい」という感覚は世界各国あり、それが「ストーカー事件」に発展していることは多々あります。ただ、日本ではこの「見られたい願望」が健全に発展し、地下アイドルの物販につながっていました。要するに、「地下アイドル」こそ、実はテレビなどには出ていないけれども、最も発展した日本の文化のかたちだったと思うのです。そして、ここまで文化を発展させたのは、日本国民特有の高い道徳性にほかなりません。

 しかし、日本でも悲しい事件が起きてしまいました。何の罪もないアイドルが、被害に遭うなど絶対にあってはいけないことです。そして、これは日本の新しい文化を絶やしてしまいかねない、とても衝撃的な事件です。どうか、今後同じような事件が起きないよう、そしてこの文化をなくさないよう、ファンも、アイドルも、運営側も努力していかなければなりません。安易に「地下アイドル」「握手会」をなくそうと考える前に、何か新しい安全対策を考えた方が、今後の日本の文化の発展に繋がると思います。
(文=ルドルフ・グライナー)

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