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撮影:ケロッピー前田
展示では、マルキ・ド・サドを最初に知るきっかけとなったアンドレ・ブルトンの『黒いユーモア選集』の原書やサド裁判の資料。60年代に交友を深めた舞踏家・土方巽の公演ポスター、責任編集を務めた68年創刊の雑誌『血と薔薇』やその撮影に使われた貞操帯など、当時の時代の空気が伝わってくる品々を見ることができる。
また、この時期から博物誌的なエッセーを数多く手がけるようになるが、64年刊行の『夢の宇宙誌』から始まる一連のシリーズについて、それらの重要資料となったドイツの著述家ホッケの『迷宮としての世界』や古代ローマのプリニウスの『博物誌』全書37巻、石や貝殻のコレクションなどが陳列されている。
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撮影:ケロッピー前田
なんといっても今回の展示の最高の見所となっているのは、膨大な手書きの生原稿や創作ノート、赤入れされた校正紙などである。どれも意外なほど丁寧に読みやすい文字で書かれており、生前の澁澤の息遣いさえ聞こえてきそうである。いまや出版業界ではデータ入稿が当たり前となっており、原稿用紙を見る機会もめっきり少なくなったが、以前の出版現場での複雑な作業工程を見せられると、思わず一冊一冊の本が手作業で編まれていた時代ならではの言葉の重みや味わいを思い起こしてしまう。