撮影:ケロッピー前田
澁澤は、70年に初めてヨーロッパ旅行をしたことをきっかけに旅好きとなり、その経験から着想を得て、80年代に入ると小説作品の執筆に集中していく。その中でも遺作となった『高丘親王航海記』については、今回の展示でも重点が置かれている。澁澤にとっては、初の長編小説であったこともあり、草稿や創作ノートを見ると、丹念にストーリーが練り上げられていった様子が伺える。改めて、文字で綴られる芸術としての文学の世界に心惹かれるとともに、澁澤の著作の中に新たな発見を求めていくためのきっかけにもなるだろう。
撮影:ケロッピー前田
一見マニアックに見える展示資料の数々だが、澁澤龍彦は当時の人気作家の一人であり、独特の文体と創作スタイルで膨大な異端的な情報を拡散することで、学生紛争やアングラ文化が花開いた戦後日本のカルチャーシーンを確かに牽引してきた人物なのである。だからこそ、その人生や作品を改めて検証&再発見することは、“戦後”という言葉がもはや通用しなくなっている現代にあって、文学、芸術、カルチャーの側面からこれからの時代を考える上でも刺激に富んだものとなるだろう。
そういう意味で、澁澤龍彦の作品は現代においても読み継がれるだけの強度を持って、迫ってくる。展示と合わせて著作を読むことで広がるイマジネーションこそ、今回の回顧展の真骨頂だと思うのである。
[展示情報]
『澁澤龍彥 ドラコニアの地平』
会場=世田谷文学館2階展示室
会期=2017年10月7日(土)~12月17日(日)
休館日=月曜日
開催時間=10:00 – 18:00 最終入館17:30
料金=一般=800(640)円
65歳以上、高校・大学生=600(480)円
障害者手帳をお持ちの方=400(320)円
小・中学生=300(240)円
※( )内は20名以上の団体料金
※「せたがやアーツカード」割引あり
※障害者手帳をお持ちの方の介添者(1名まで)は無料
問い合せ= 03-5374-9111
住所=東京都世田谷区南烏山1-10-10
HP= http://www.setabun.or.jp/index.html
[展示概要]
フランス文学者であり、翻訳、評論、エッセー、小説にわたる多くの作品を執筆した澁澤龍彥。没後30年を迎える本展では、独自の文学表現活動を「澁澤スタイル」として、その創作と足跡をあらたな視点から総覧します。
澁澤はサドをはじめとする異色の文学を出発点としました。転機となったエッセー集『夢の宇宙誌』、代表作『高丘親王航海記』など300点を超える草稿・原稿・創作メモ類の自筆資料、愛蔵の美術品やオブジェ、和洋の蔵書などから、表現活動の背景と博物誌的世界の魅力に迫ります。伸縮自在な澁澤龍彥の創作世界、ドラコニアの領域にようこそ。
[主催]公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館
[監修]巖谷國士、菅野昭正
[後援]世田谷区、世田谷区教育委員会
[助成]公益財団法人朝日新聞文化財団
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