まるでポストヒューマンビーイングの世界観! 写真家・酒航太が撮った最高強度の動物写真「ZOO ANIMALS」インタビュー

■モノクロ写真でアナザープラネットに行ける


ーー動物園を撮る写真家は、動物そのものに対する興味というよりも、その周囲の人間に対する興味のほうが大きいように思えます。あるいは、自分を動物に投影して心情を物語るような写真や、飼育されている動物の姿を通して人間社会を批評するような作品もありますよね。でも『ZOO ANIMALS』には、そういった意図は感じません。

:ジャーナリスティックな意味合いで、社会を批評するような気持ちとか意図はそんなにはないですね。自分を投影しているような気持ちもほとんどないです。もちろん、写真にはそういうものを映し出す鏡のような効果はあると思うけれど、そこを人がどう思うかはわからない。それは僕のコントロール外ですからね。

ーー猿の写真などを見ると、「お前は何者だ」ということを問いかけられているような印象は持ちます。おそらくそれは、モノクロフィルムで撮られていることの影響が大きいような気もするのですが。意識してモノクロを選ぶ作家は、カラーの情報を削ることで、テーマを引き立てるとか、あるいは写真から想像できるイメージを広げるような効果を期待してのことだと思うのですが。どうしてフィルムを使ってモノクロで撮っているんでしょうか?

酒:1つには、先ほど話したように、デジタルで撮ることに飽きたというのがあります。デジタルは撮った写真をその場で見られるじゃないですか。撮ったその場で確認して、家に帰ってパソコンのモニターでデータを見てPhotoShopでいじって。なんか仕事をしているみたいで。そうじゃなくて、もっとフィジカルなことがやりたくなったんですね。暗室作業の身体性が好きだということもありますね。

ーーなるほどたしかに、フィルムで撮って現像するほうが、自分の体を使って1点1点プリントを仕上げている感覚を感じられる気がします。

酒:それに、フィルムって不自由ですよね。失敗も含めて不自由なぶんデジタルにはない偶然性みたいなものが入り込んでくる。現像して、引き伸ばして、プリントしてという作業のなかで、あらかじめ狙ったものとは違う写真ができる。驚きがいっぱいあるんですよ。そこが面白いんです。モノクロにしているのは、色がないことで写真が一気に非現実的なものになるから。

ーー「非現実なもの」ですか。

酒:現実世界において、人は肉眼でものを見る時にはカラーの状態で見ていますよね。一方で、モノクロって写真でしかないと思うんですよ。モノクロにすることで、違う世界に行ける。

ーー違う世界に行けるというのはわかる気がします。

酒:モノクロにすることで、アナザープラネットのように見えるのが好きっていうのはありますね。「アフターヒューマンビーイング」の世界を見ているような。写真を撮っていて、動物がエイリアンように見えてくることがあるんです。映画の「スターウォーズ」で、いろんな星から集まった宇宙人たちが集まる酒場が出てきますよね。ああいう感覚。

ーーたしかに、「ZOO ANIMALS」を見ていると、独特の浮遊感、普段見ている動物とは違う、遠くて近い、距離感の掴めないような別世界をたゆたっているいるような印象を受けます。

 

■「驚き」の強度、「目の喜び」のために


ーー10年近く動物園の動物を撮ってきたことで、心情の部分で変わってきたことはありますか?

酒:やっぱり新鮮さはなくなってきますよね。「動物をそれだと認知する前に撮りたい」って言ったけれど、何度も動物園に通っていれば、動物の姿を自然と認知するようになってしまう。慣れてきて、次に動物がどう動くのか予想がつくようになっちゃう。一般的な意味で動物を撮るのがうまくなってきちゃうんですよ。

ーーなるほど。

酒:でもそれは、自分が撮りたい写真という意味では逆に、写真が下手になっちゃうわけですよ。驚きがなくなってきたことの温度感の違いは、写真を通して不思議と伝わりますよね。写真ってそういうものだから。

ーーお話を伺っていて、素直に「動物はかっこいい、面白い」という部分に惹かれて、その姿を見て、撮ることの楽しさ、撮り手にとっての「目の喜び」を感じてきた。そして、そこから生まれるアナザープラネットのような世界を酒さんは写真を通して作ってきたのだと思いました。写真集と写真展という形でまとめられたことで、このシリーズはひと段落という所でしょうか。

酒:動物を撮ることは自分の「癖」になっていることではあるから、これからも動物は撮っていくと思います。ただ、回数は減るでしょうね。そのほうが新鮮さが感じられますから。あえて撮影回数を減らすことで、自分が感じる驚きの度合いをコントロールするというか。

ーーこのタイミングで「ZOO ANIMALS」を発表する意義のようなものは感じていますか?

酒:今回はいろんな条件が揃って写真集や展示で発表することになったわけですけれど、そういう機会がないと次に行きにくいんですよ。やっぱり発表しないと区切りをつけにくいし、自分の気持ちでも次に行きたいというのもあったので、「そういう時期だな」って。

ーー次の作品の構想は?

酒:次はモノクロで風景写真を撮りたいと思っています。自分はピュアにシャッターを押す喜びからは抜けられないから、コンセプトを作って云々と言うよりも、本当に、写真を撮ることで感じる身体の喜びを感じていきたいと思います。

■作家プロフィール
酒航太(さけ・こうた)
1973年、東京都武蔵野市出身。1997年、San Francisco Art Institute卒業。国内外の個展、グループ展にて写真作品を発表。2014年より、新井薬師前にてギャラリー/バー「スタジオ35分」のオーナーを務める。

■作品インフォ
「ZOO ANIMALS」
仕様:ソフトカバー/257mm×182mm/32ページ
価格:2,750円(税込)
https://bookshopm.base.ec/items/49404084

 

■写真展インフォ
酒航太写真展「ZOO ANIMALS」
会期:2021年11月5日~11月16日
時間:13:00~19:00
休廊日:11月10日、11日
場所:gallery176(ギャラリー・イナロク)
https://176.photos/exhibitions/211105/

TOCANA編集部

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