ーーどうして飽きちゃったんでしょう?
酒:狙って撮る場合って、先に答えがあって、それに合わせている感じでしょう。計画性を持ってもってやっていた。それを続けているうちに「なんでこんなことをやってるんだろう」って思ってしまって。そうではなくて、真逆なことをやりたくなったんですね。
ーーたしかに、ドリルは解いてしまえば終了ですもんね。その先に広がりや新しい展開はないというか。
酒:それと、デジタルで撮ることに飽きた部分もあります。たくさん撮れるぶん、予想通りに撮れちゃいますからね。やっぱり、その動物の実物がなんだかよくわからない状態で撮りたいんです。
ーー「ZOO ANIMALS」の写真は、いわゆる「キメの構図」、よく言われるような「決定的瞬間」をはずしている気がします。
酒:実際に撮っている時は、そういうキメの構図で撮っている時もあって、あえてズラそうという意思はないんですよ。ただ、そう見えるのであれば、セレクトの時にそういう写真を選んでいる部分はあります。選ぶ時は早いですよ。コンタクトシート(フィルムをそのまま1枚の印画紙にプリントしたもの)を見て、可能性のあるカットを選んで、どんどん引き伸ばして、最終的に残ったものが「ZOO ANIMALS」の写真です。
ーーどういう基準で選んでいるんですか?
酒:あえて言えば、イメージの強度で選んでいます。強度というのは、耐久力。10年後、20年後に見ても何か伝わる写真を目指したい。写真をやっている人なら誰でもそうだと思うけれど。
■あえて制約を設けることで偶然の「奇跡」を生む
ーー撮影の時に留意していることはありますか? 撮影のルールとか。
酒:撮影の選択肢はあまり増やさないようにしていますね。その時々で気分で違いますが、たとえば50mmレンズだけしか持っていかないとか。たいていは3本、50mmの標準レンズと60mmのマクロレンズ、200mmの望遠レンズといった、焦点距離の違うレンズを持っていくんですけれど。フィルムは3本だけ持っていって。
ーーそれはどうしてですか?
酒:いろんな状況に対応できるように機材を用意するということは、被写体がどんなもので、どんな状況で撮るのかっていうのを認知して撮ることになりますよね。むしろ、不自由な状態でも撮るしかないと思って撮るほうが、後から見て、意外な驚きのある写真になるんです。偶然から生まれる何かを呼び込むというか。とはいえ、うまくいかない時がほとんどなんですけれど。
ーー狙った写真を撮れないように、あえて制約をかけるということですね。そのぶん外すことも多そうです。
酒:調子が乗らなくて撮れない時もあるんだけど、行くと必ず奇跡みたいなことが起こるんですよ。たとえば、コウモリが目の前でいきなり床に落ちて、床をほふく前進して、「何これ?」って。そういう、撮らずにはいられないようなことが起こる。
ーーあえて不自由にすることで、「奇跡」みたいなものを呼び込みやすいようにしているかもしれないですね。そういえば、以前お話しを伺った写真家で、「写真を撮るために出かけるのではなく、出かけたついでに撮るようにしている。そのほうがいい写真が撮れる。被写体が向こうから飛び込んでくる」と言っていた方がいました。そのほうが撮り手にとって予測がつかない被写体に出会えるのだと。
酒:自分は写真を撮るために動物園に行っているので、ちょっと違うかもしれないですね。意図的に、何回かカメラをも持たずに行ったことがあるんですよ。撮影ということで言えば意味がないんだけど。自分は俳句をやっているんですけれど、動物の俳句を作ろうと思って、カメラを持たずに行ったらなかなか面白かった。カメラはないけど撮りたくてわなわなするんですよ。