“サタニック・パニック”が生んだ冤罪の闇… フォールリバーの悪魔的殺人事件 ― それは本当に「儀式殺人」だったのか?

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イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 1979年から1980年にかけて、米国マサチューセッツ州の工業都市フォールリバーは、血と恐怖に染まった。若い女性たちが次々と惨殺され、その手口は「悪魔崇拝(サタニズム)による儀式殺人」と囁かれた。カルト教祖、黒ミサ、生贄……、メディアはセンセーショナルに報じ、街はパニックに陥った。

 しかし、40年以上の時を経て、事件の真相は大きく揺らいでいる。あれは本当にカルト教団による犯行だったのか。それとも、社会不安が生み出した集団ヒステリーと、ずさんな捜査が仕立て上げた冤罪事件だったのか。アメリカ犯罪史に刻まれた、最も不気味で議論を呼ぶ事件の闇に迫る。

連続する凄惨な殺人—犠牲になった3人の若い女性

 事件の幕開けは、1979年10月13日。17歳の少女、ドリーン・レヴェスクの遺体が、廃校の観客席の下で発見された。手首を縛られ、頭蓋骨を砕かれるという、あまりにも残忍な殺害方法。その現場は、まるで何かの儀式を思わせる異様な雰囲気に包まれていた。

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画像は「a true crime podcast」より

 数週間後、19歳のバルバラ・ラポサが姿を消し、翌年1月に遺体で発見される。彼女もまた、性的暴行の末に撲殺されていた。

 そして1980年2月、20歳のカレン・マーズデンが失踪。彼女の遺体は完全には見つからず、森の中で頭蓋骨の一部が発見されただけだった。「悪魔への生贄として首を刎ねられた」そんなおぞましい噂が街を駆け巡り、恐怖は頂点に達した。

犠牲者はいずれも、売春や薬物問題を抱える、社会的に弱い立場の女性たちだった。彼女たちの絶望が、悪魔を呼び寄せてしまったのだろうか。

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画像は「a true crime podcast」より

「カルト教祖」と「悪魔の愛人」—事件の主役たち

 捜査線上に浮かび上がったのは、地元のピンプ(ポン引き)であったカール・ドリュー(当時26歳)。暴力的で巧みな人心掌握術を持つ彼は、売春婦たちを恐怖で支配する「悪魔崇拝カルトの教祖」として、瞬く間に事件の主犯格と見なされた。

 そして、この物語のキーパーソンとなるのが、当時17歳のロビン・マーフィーだ。彼女自身も売春組織の一員であり、ドリューの側近だった。彼女は検察側の重要証人として、おぞましい儀式の実態を赤裸々に語り始めた。

 マーフィーの証言によれば、ドリューは森の中で黒ミサを執り行い、動物を生贄に捧げ、乱交パーティーに耽っていたという。そして、カレン・マーズデンの殺害は、ドリューが「悪魔への生贄」として命じた、儀式のクライマックスだったと証言したのだ。

 この衝撃的な証言に基づき、カール・ドリューは1981年に終身刑を宣告された。一方、ロビン・マーフィーは司法取引に応じ、減刑と引き換えにドリューを有罪に追い込んだ。

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画像は「a true crime podcast」より

40年後の告白「すべて嘘だった」—崩壊する物語

 物証は何一つない。すべては、ロビン・マーフィーという一人の少女の証言の上に成り立っていた。しかし、事件から数十年後、彼女自身の手によって、その物語は根底から覆される。

「すべて嘘だった。当局の圧力に屈し、自分の刑を軽くするためにカール・ドリューを陥れた」

 マーフィーはそう告白し、過去の証言をすべて撤回したのだ。彼女のこの言葉は、事件の構図を180度転換させた。本当にカール・ドリューは「カルト教祖」だったのか?悪魔崇拝の儀式は、本当に存在したのか?事件は一転して、深刻な「冤罪」の可能性を帯び始める。

「サタニック・パニック」という時代の狂気

 なぜ物証もないまま、これほど突飛な物語が信じられてしまったのか。その背景には、1980年代のアメリカを席巻した「サタニック・パニック」という社会現象がある。

 当時のアメリカでは、悪魔崇拝カルトが社会に潜み、子供を誘拐し、儀式殺人を繰り返しているという、根拠のない恐怖が蔓延していた。逸脱した若者の行動はすべて「サタニズム」と結びつけられ、数多くの杜撰な捜査や裁判が行われた。フォールリバーの事件は、まさにこの集団ヒステリーの象徴的な事件となってしまったのだ。

 貧困、売春、ドラッグ、社会の暗部に巣食う悪魔。人々は分かりやすい物語を求め、メディアは恐怖を煽り、警察は「サタニズム」という枠組みに事件を押し込めた。カール・ドリューは、時代の狂気が生み出した生贄だったのかもしれない。

今も終わらない事件、ドキュメンタリーが投じた一石

 この忘れ去られようとしていた事件に、再び光を当てたのが、2021年に公開されたドキュメンタリーシリーズ『Fall River』(制作:ブラムハウス)だ。番組は新たな証拠や関係者のインタビューを通じて、警察の不正や証拠の矛盾を鋭く指摘。ドリューの無実を訴え、事件の再調査を求めた。

 カール・ドリューは今も獄中から無実を叫び続けている。そして、物語の鍵を握るロビン・マーフィーは、2024年5月、ついに仮釈放された。彼女の口から、本当の真実が語られる日は来るのだろうか。

 フォールリバーの殺人事件は、未だ解決していない。それは、悪魔崇拝というオカルトの皮を被った、人間の暴力と絶望、そして社会の脆弱性が絡み合った、あまりにも複雑で悲しい物語なのである。

参考:Mysterium IncognitaWikipedia、ほか

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