忘れられたエジプトの女王が存在した? 考古学者も驚愕する王妃メレト・ネスの異常に高い権威

 エジプトで5000年前のワインの酒がめが発掘された――。奇跡的な保存状態の酒がめに加えて豪華な副葬品の数々が奉納されていたのは古代エジプトの女王メレト・ネスの墓である。 今回の発掘調査で彼女が紀元前3000年前のエジプトで絶大な権力を掌握していたことが示唆されている。

王妃メレト・ネスは事実上の王だった?

 メレト・ネス(Meret-Neith)は、古代エジプト第一王朝(3100BC頃-2890BC頃)の統治者の一人であるジェット王の妻であり、デン王の母である。

 エジプト・アドビスの一角にある彼女の墓は1900年に考古学者によって初めて発見され、日干しレンガ、粘土、木で作られていたことが判明し、41人の廷臣や召使の墓が含まれていた。

 そして今回、エジプト、ドイツ、オーストリアの考古学調査団が行った最新の発掘調査によって何百もの密封されたワインがめや副葬品などが発掘され、そうした数々の歴史的遺物から当時の彼女が王と同様の絶大な権力を持っていた可能性が浮上してきた。

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 権力者であったことを物語る数百ものワインの酒がめにはさすがに液体は残っていないもののきわめて保存状態が良く、ブドウの種や成分が沈殿して形成される酒石も確認された。

 これらの酒がめはこれまで発見された最古のワインの次に古いものとなるという。ちなみに世界最古のワインの痕跡もこのアビドスで発見されている。

 また慎重な発掘方法とさまざまな新しい考古学技術のおかげで、メレト・ネスの墓群が複数の建設段階を経て比較的長い期間をかけて建設されたことを立証することもできたという。

 彼女の偉大な権力を示す証拠はこれだけではない。

 墓内で発見された碑文から、メレト・ネスが紀元前3000年頃に国家財務の担当を含む多くの重要な政府の要職に就いていたことが示唆されてくるという。

 専門家によれば数々の遺物からメレト・ネスが息子のデン王の若い頃に摂政として国家を統治していた可能性があり、女性としては唯一この地にこのような壮大で豪華な墓を作らせた理由を説明するものになるかもしれないという。

「これが極めて重要な墓であることは間違いない」と、トロント大学のエジプト学の名誉教授ロナルド・レプロホン氏は電子メールで科学系メディア「Live Science」の取材に回答している。

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女性として異常に高いレベルの権威を持っていた

 こうして一部の専門家は、以前に発見された統治者のリストやその他の手がかりに基づいて、メレト・ネスが男性の王に与えられていたのと同じ権限を持っていたと確信している。

 しかし詳細は依然として謎のままであると、今回の発掘調査を主導したオーストリアのウィーン大学の考古学者でエジプト学の教授であるクリスティアナ・ケーラー氏は言及している。

「証拠が完全に決定的ではないため、エジプト学者の間では多くの議論が行われています」とケーラー氏は電子メールで「Live Science」に語る。

「王朝初期の女王でこれほど多くの王室特権を持っていた女王は他にいなかった」と、今回の発掘には関与していないフランス・ソルボンヌ大学のエジプト学者ジャン・ピエール・パツニック氏はかつて「第7回欧州エジプト学者会議議事録」の中で述べている。

 歴史的事実として古代エジプトでは、特にその初期には女性が統治することはほとんどなかったこと挙げ、メレト・ネスが女王であった可能性を疑問視する見解も少なくない。

 スコットランド国立博物館の古代地中海コレクションの主任学芸員であるマーガレット・メイトランド氏は「妻や娘は王位継承の観点から通常考慮されていない」と電子メールで「Live Science」に回答した。

 それにもかかわらず、今回の調査で得られた新たな証拠はメレト・ネスが「王室の女性としては異常に高いレベルの権威」を持っていたことを示唆しているとメイトランド氏は認めている。

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画像は「Pixabay」より

 サウスカロライナ州クレムソン大学歴史学の名誉教授、エリザベス・カーニー氏も同意し「第一王朝の早い段階で女性の王がいたら、それは本当に驚くべきことだろう」とコメントしている。

 こうした数々の指摘があるものの、メレト・ネスの地位と影響力に関する疑問は「進行中の研究の核心」であるとケーラー氏は説明し「この巨大な複合施設の発掘が完了すれば、さらに多くのことが分かるとほぼ確信しています」と今後のビジョンを語っている。

 ちなみにメレト・ネスという名前は「女神ニースの最愛の人」を意味しているという。はたして5000年前の初期のエジプト王朝に絶大な権力をもつ“女王”が君臨していたのだろうか。

参考:「Daily Mail」「Live Science」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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