【閲覧注意】ミイラ、腐乱死体、ぬいぐるみ……1000体以上の死体を撮った死体写真家・釣崎清隆が樹海で見たものとは!?

■死を選んだ者たちの姿

 一行は“緑の地獄”を抜けてぽっかり天空が開く、乾いた溶岩だらけの一角に行き着いた。花を咲かせる木もあり、幻想的な空間である。しかしこのまま、ごつごつした岩のみの行く手を直進するのはいささか躊躇われた。こんな過酷な場所を、自殺志願者は果たして歩くものだろうか?

 しかし、先導する小平氏は向こう岸まで直進した。我々は続く。タニシ氏のお気に入りズックの縁周りが無残に剥がれた。

 ようやく樹木が覆う“向こう岸”に着くと、なんとヒトの大腿骨が行く手を阻むではないか。その奥の遺留品を見るに、女性のものである。頭蓋骨が発見されなかったので撮影はやめた。しかし、その現場のさらに奥に広がる天空の開けた不毛地帯に異物を発見した。児童並みに大きなクマとスヌーピーのぬいぐるみである。こんな場所まで、彼女が抱いてきたのか。

 この不可思議にも、我々は思いをいたさなければならない。

 翌日は実入りが少なく、最終日5月2日を迎えた。午後から雨となる予報であった。
小雨がちらつき始める中、先導の小平氏がぴたりと、立ち止まった。
「この辺を重点的に探してみましょう」
 ほんのり、死臭がするというのである。
 私は驚愕した。枝ぶりのいい木や紐、自殺に適した環境を核心に迫る手掛かりとするセオリーを超えて、動物的嗅覚によって死体現場を探し当てようとは。
 自慢じゃないが、私はおそらく世界で最も死臭を嗅いでいる芸術家だと思う。しかし、言われてみて確かに臭う、という程度の腐乱臭である。
 そしてルートを外れて遮る大きな岩を越えた地べたに、果たして二体の腐乱死体を発見したのである。まるで肉食獣の捕食の流儀だ。
 除草剤を服用して心中した、男女の越冬死体であろう。

【閲覧注意】ミイラ、腐乱死体、ぬいぐるみ……1000体以上の死体を撮った死体写真家・釣崎清隆が樹海で見たものとは!?の画像5心中と思われる二体の腐乱死体

死因としては主要であり捜索の手掛かりが多い首吊りの自殺体と異なり、地べたに転がるだけで場所を選ばない薬物自殺の現場は発見が困難だ。ひたすら自殺志願
者の気持ちに寄り添い、常に嗅覚を含めて五感を研ぎ澄ます者にしかわからない不可能な境地である。

 そうであるにしろ、私は人間が本来的にもつ動物的感覚の重要性を再認識させられた。今まで私は死体の自然から離れよう離れようと、観念的な死の哲学にとらわれすぎたかもしれない。

 前述の「きりんさん」もこの心中自殺の二人も、同時期に死んだ越冬死体と思われるが、片やミイラ化して臭わないのに対し、片や地べたに横たえた二人は腐敗が進んで白骨化の過程にあり、はらわたを動物に食われている。ちょっとした条件の相違がかくも異なる結果を生む。

 死体の自然が教えるものは深淵だ。米国の死体農場ではないが、定点の経過観察によってはじめて分かる真実もあるのだ。


■自殺体通報マニアたちの偽善

 小平氏は、既述の通り、発見したご遺体を敢えて警察に通報するようなことをしない。読者の中には、そんな感覚に違和感を覚える者もあるかもしれない。樹海に魅せられた者たちの多くも発見した警察に通報することを正義と信じ、目的化して死体捜索している。あからさまに言えば、それを免罪符としている。私には彼らが偽善者以外の何物にも見えない。
 自殺体通報マニアたちは、自らの趣味を後ろめたく思っているからこそ、己の合理化のためだけに、かくも無意味な行動でかえって社会を混乱させているのだ。第一、樹海と一体化したいと願う自殺者の尊厳を穢している。

 小平氏は言った。
「樹海の自殺体を警察に通報する行為は、ガンジス川を流れる死体をわざわざ網ですくいあげて、土葬に付すような罰当たりな偽善です」
 その通りである。樹海とバラナシはここでも繋がるのか。

 この3日間、充実した成果を得ることができた取材だった。灯台下暗しとはよく言ったもの、今回の作品は私の世界を巡る長い旅の集大成として相応しいものになろう。

 ぜひ、今夏刊行の『The Dead』をご期待願いたい。

・釣崎清隆写真集『THE DEAD』出版プロジェクト
死体写真家・映像作家として、世界各地の犯罪現場や紛争地域を取材してきた釣崎清隆が、あらためて“死”をテーマに、国内での写真集刊行に挑戦するプロジェクト。

https://motion-gallery.net/projects/tsurisaki

釣崎清隆(つりさき きよたか)
死体写真家として知られ、ヒトの死体を被写体にタイ、コロンビア、メキシコ、ロシア、パレスチナ等、世界各国の犯罪現場、紛争地域を取材し、これまでに撮影した死体は1,000体以上に及ぶ。写真集『DEATH:PHOTOGRAPHY 1994-2011』(Creation Books)、著書『死者の書』(三才ブックス)、DVD『ジャンクフィルム』など多数

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