写真家:林典子氏 撮影:新納翔
2013年フランス世界報道写真祭「Visa pour l’Image(ビザ・プール・リマージュ)」報道写真特集部門で最高賞を受賞した気鋭のフォトジャーナリスト・林典子。社会に鋭い視線を投げかける優れた業績に対し、2011年名取洋之助写真賞、12年DAYS国際フォトジャーナリズム大賞と、今最も活躍が注目されている写真家の一人である。そんな林氏が、今月の6月に待望のファースト写真集『キルギスの誘拐結婚』(ナショナルジオグラフィック)を上梓。
現地語で「アラ・カチュー(ала качуу)」と呼ばれる誘拐結婚は、文字通り女性の合意なく強引に誘拐し、結婚を迫る風習だ。どうしてキルギスの女性はそれを受け入れてしまうのか? 取材を通して彼女は何を感じたのだろうか?
画像は、『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナルジオグラフィック社)
――写真集発売おめでとうございます。林さんがフォトグラファーになった経緯ってユニークですよね?
林氏(以下、林) ありがとうございます。初めは写真を仕事にするような気は一切なかったんです。アメリカのペンシルバニア州の大学で国際紛争の勉強をしていたのですが、22歳の時に研修で西アフリカのガンビアに行って。その時たまたま持っていったデジカメで写真を撮っているうちに、面白さを見つけたんです。それで、一時大学を休学して現地の新聞社で働くことにしました。
――新聞社って、面接はあるのですか?
林 日本の新聞社と違ってフォーマルな感じではなく、アットホームな感じでした。「何ができる?」と聞かれて、写真を撮ることになったんです。最初にカメラマンとして携わった仕事が、アレックス・ヘイリーの小説にちなんだ「ルーツフェスティバル」の撮影でした。驚きましたね、あんなに貧しい国なのに日本にいても経験できないような豪華なパーティーで、アフリカの国の様々な料理がぶあぁーと並んで。ガンビアでの新聞社では写真をたくさん撮ったわけではなかったのですが、「伝えることの大切さ・意義」などを知ることができ、今でも自分の活動のベースになっていますね。私は、初めから何かを伝えたいと思って取材するのではなく、単に自分が「知りたい」という想いから入っていくんです。話が通じなくても、一緒に生活しているうちに、取材の対象者ではなく、個人的になんとかしてあげたいという思う感情が芽生えてくる。自分では、冷静でさっぱりした性格だと思っているけど、ジャーナリストではなく、パーソナルなものとして受け止めて活動するようになってきている感じがしますね。