60年間お風呂に入らず“岩になった”80歳! 糞タバコ、髪焼き・・・“極”フリースタイルな生活とは?
“風呂に入らない”と決意したその時、彼の心は・・・
キッカケは病気にありました。青年だった頃、彼は強度の精神疾患(強迫神経症の一種か)に罹ったことがあるのですが、村人の話によれば、それ以来、彼は人のいる街場を避けて独り、荒涼とした大地で寝起きする生活に入ったのだといいます。森林浴や農作業による治癒効果を狙ったメンタルセラピーはよく聞きますが、その極北とでもいったところでしょうか。切なくはありますが、彼の並々ならぬ健康への執着のベースにはこんなエピソードがあったのですね。
極めてフリースタイルなアウトドアライフ
長きに渡ってお風呂に入らないこと以外にも、ハジさんの生活はその風貌同様に、凡人の想像力を越えています。
住み処は大地に掘った墓穴のような穴ぐら。村人が哀れみから建ててくれたブロック造りの掘立小屋で寝ることもあるのですが、基本的には穴ぐらと野外が彼の寝場所です。髪が伸びたらハサミなどは使わず、直接火で髪を焼き、壊れて落ちた自動車のサイドミラーを使って、身だしなみのチェックは欠かしません。冬の寒い時期には古ぼけた軍用ヘルメットを被って寒さをしのぎます。
財産と言えるものは、スチール製の水道管で自作したパイプのみ。このパイプにタバコ代わりの動物の糞を詰め、紫煙をくゆらすのが憩いの時間。基本的に自給自足。誰にも迷惑をかけずゴミも出さない。リサイクルにも熱心。と、ある意味、ちょーローインパクトでアウトドアライフかくあるべし、といった生活を送っているのです。
イスラム教圏の優しい眼差し
こんな薄汚れた世捨て人のようなハジさんに対して、周囲の人たちは、決してネガティブな印象を抱いていないようです。穏やかでつねに笑顔を絶やさない彼を、近隣の人達は “Amoo Haji” と呼んでいます。この “Amoo” とは、ペルシャ語で「優しいお年寄り」を表す愛称のこと。子供がよく使う表現で、いわば、「ハジおじい」といったところでしょうか。同情して小屋を建ててくれる隣人もいれば、時折食べ物を差し入れてくれる人達もいる。なかには、無料の入浴サービスを施そうとする若者達もいたようでしたが、さすがにこの申し出からは逃げ出したらしい。
つまり、彼は独りではあるけれど、孤独ではないのです。自ら社会をドロップアウトした浮浪者がそのコミュニティの一員として認められ、他の住人たちとゆるやかな関係を築いている。このことは、ハジさんの人柄もさることながら、巡礼者を敬い(“Haji” という言葉には、「メッカ巡礼を終えたイスラム教徒」という意味もある)、貧しい者への施し(ザカート、サダカ)を義務とするイスラム教的なバックボーンあってのことでしょう。ハジさんが生まれたのがイランでよかったよかった。
もしハジさんが日本で生きているとしたならば、無視されるか排除の対象になることでしょう。運よく福祉のネットワークに掛り、とりあえずは暖かい食べ物と快適な居場所が与えられるかもしれません。でもね、はたしてそれが彼が心から望むことなのかどうか。イスラム文化圏を諸手を挙げて賞賛するつもりは毛頭ないけれど、ハジさんのような人にも居場所が用意されるような社会になれば、日本はもっと生きやすいのに。
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