デカ目の新スタイル【LEDつけまつげ】=ハイテクノロジーで新世紀の美を創り出す、スンミ・ パーク
世の女性達にとって、いつの時代も “目” はファッションの要です。
アイシャドウの歴史はおよそ5000年前、古代エジプト時代に始まったと言われています。いまやパキっとしたメイクに欠かせないアイシャドウですが、本来の用途は紫外線から目を守るためのプロテクターでした。あくまで健康面で大切な慣習であり、現代のような女性を美しくするためのコスメティックアイテムではなく、眼病防止が主な目的だったのです。
でも、女はいつの世も変わらず美に貪欲。かつ、敏感な生き物です。おそらく、UVケア(?)目的で目の周りに青や紫の顔料を塗っているうちに、さらに美しくなった自分を鏡の中に見い出したのでしょう。まるで、出産時の痛みを和らげるための薬品を研究している最中に誤って開発途中の薬剤をドーズした結果、不覚にも “キマってしまった” リチャード・アルバート博士が、のちにLSDを発明した時のように。
世界で初めて、自分を美しく飾るためのアイメイクをした女性は、世界三大美女の1人として名高いクレオパトラでした。当時はさまざまな鉱物を粉末状に加工した顔料をアイシャドウの原料に使っていたのですが、彼女はまぶたの上下で、塗る色を変えていたという逸話も残っている、ファッションリーダーだったのです。
「もしクレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史も変わっていたであろう」
世界史の教科書にも出てくる17世紀フランスの哲学者、パスカルは、彼の遺著である『パンセ』にそう記しています。でも、私は敢えてこう言いたい。
「もしクレオパトラがアイシャドウを使っていなかったら、世界の歴史も変わっていたであろう」と。
女性のアイメイクには、何時の時代も変わらない傾向が見られます。それは、「目を大きく見せたい」という強烈な願望です。
アイシャドウ、つけまつげ、アイパッチ、さらには外科的な美容形成手術などなど、アイメイクに用いられる技術や材料は、時代ごとの変化を遂げてきました。その一方で、「目を大きく見せたい」というメイクの本質的な目的、すなわち女性側の要求はまったくと言っていいほど変わっていません。「目の大きな女は美しい」……女性にとって、大きな瞳は普遍的な美の基準。マストな条件として認識されているのに違いないでしょう。
■スンミ・パーク コンプレックスからの克服 ~普遍の美を求めて~
ロンドンとソウルを拠点に活動する韓国人マルチメディアアーティスト、デザイナーのスンミ・パーク(Soomi Park)がLEDライトを利用したこの “つけまつげ的ジェット” でアイラインを飾る「LED Eyelash」というプロジェクトを思いついたのも、この「なにゆえ世の女たちは目を大きく見せたがるのか?」という、女性特有の美的感覚に対する素朴な疑問からでした。特に、欧米人と比べて細く小さな目を身体的特徴として持つアジア系女性の間でこの傾向が如実なことは、FaceBookに無数にアップされ、ツイッターのタイムラインを絶え間なく流れ続ける彼女達のプロフィール画像から一目瞭然です。
加えて、彼女がこのLED Eyelashプロジェクトを着想した2000年代半ばは丁度、LEDそのものが一般に普及し始め、価格的にもこなれてきた時期でした。アイメイク用の新部材、いわば、古代エジプト時代のクレオパトラにとっての粉末顔料こそが、ソンミ・パークにてとってはLEDだったというわけです。
■LED Eyelash 技術的特徴
LED Eyelashのエッジな技術的特徴は、内部に搭載したセンサーにあります。驚いたことに、そのセンサーは瞳孔の動きを感知し、そこからの情報をもとにLEDライトをオンオフさせる仕様。つまり、LED Eyelashを装着し視点をを動かすと、その動きに合わせてライトが点滅する仕組みになっているのです。
Youtubeにアップされたムービーに映るソウルの繁華街(おそらく、彼女が卒業した韓国でもトップクラスのアートスクール、弘益大学校があるホンデエリア)、薄暗闇に仄かに光るネオンをバックに妖しく光るLED Eyelashの、ウェットな空気感はかなりイカしています。LED光を移した瞳のメロウな瞬きは蠱惑的ですらあり、見る者のハートをゾクゾクさせずにはいられません。
ちなみに彼女はロンドンのロイヤルカレッジオブアートでインタラクティブアートの修士の学位を取得後弘益大学校のIDASでデジタルメディアデザインなどの専門教育を受けた生粋のクリエイター。この作品により2008年、オーストリアの国際的なアートコンペであるPrix Ars Electronicaのインタラクティブアート部門に入選。プロジェクトそのものの国際的評価は高く、発表時には多くのメディアで取り上げられました。その後、韓国、デンマーク、オーストリア、アイルランドなどの芸術祭やギャラリーで展示が行われるにいたったのです。
LED Eyelashは現時点ではあくまでインスタレーションを含めたアート作品であり、一般向けに製品化されていないため、残念ながら購入することはできないようです。とはいえ、ファッションアイテムとしての訴求力やポテンシャルは十分。まずは上海あたりのクラブシーンから火が点き、いずれは目の周りを光らせたギャルたちが、東京、渋谷のTSUTAYA前をスマホ片手に闊歩する時代がやってくるのかも。
(文=セルジュ・サキヤマ)
・スンミ・パークHP→http://soomipark.com/main/
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