【日本怪事件】京大の兄と早稲田の弟が決闘! エリートたちの高すぎるプライドが招いた最悪の結末

  京大における、学生と大学当局との大衆団交の様子について、当時の新聞にはこう書かれている。

「学生側は、およそ2千人という多数で奥田総長以下に迫り怒声と罵声を浴びせかけるという狂態を演じた」

 講義中の教室にまで入ってきて教授をつるし上げる学生の姿を見て、順臣は憤った。敬うべき目上の者を罵ることなど、到底許すことはできない。もともと保守的な考えだった順臣は、万葉集を読み、天皇について学び、右翼を自認するようになる。“ゲバ棒”と呼ばれる角材を振り回して、暴力を賞賛する全共闘に対して、順臣は体を張って闘った。弟には負けた順臣だったが、全共闘学生には威力を発揮した。

 バリケードでキャンパスを封鎖する「バリケードストライキ=バリスト」が全共闘学生によって行われる大学も全国で増えていた。44年の1月に全共闘学生が立てこもった東大安田講堂が警視庁機動隊によって陥落すると、それと入れ替わるようにして運動の高揚を見せるようになった京大で、時計台のバリケード封鎖が行われる。

 京大では警察を導入するのをよしとせず、大学当局は外から説得したが、全共闘学生がそれに応じるわけもない。バリストに反対する日本共産党系の学生、右翼、一般学生がバリケードの解体に乗り出した。もちろん全共闘学生は抵抗する。お互いに投石をしたり、乱闘になったりしながらの実力行動である。

 順臣は先頭に立って奮闘。バリケードは取り払われた。

■再び決闘を申し込む順臣

 その後、全共闘学生の反撃があるのだが、小康状態になっていた4月13日、順臣は新幹線に乗って上京した。そして、電報を打って和人を呼び出す。再び、決闘をしようというのである。

 午後6時。待ち合わせ場所は、1月の攻防で廃墟となっていた東大安田講堂前だった。和人は全共闘運動とは、まったく無縁だ。だが、順臣からすると、兄を兄とも思わぬ和人が全共闘と二重写しになっていた。

 和人にとって、決闘は望むところ。顔を合わせると、お互いに「やるか!」と声を発した。だが和人は、父親の鹿児島での政治運動に付き添って帰ってきたばかりだった。「疲れているのでまたにしよう」延期を申し出た。

 2人は、順臣がとっていた近くの旅館の部屋に入り、ブランデーを飲みながら食事をする。「今度決闘をする時はこうしてやる」と、まるで自分が勝つのが当たり前かのように、嬉々として決闘のことを語る和人を前にして、順臣の怒りがふつふつとわいてきた。

 午後11時頃、「遅くなったので帰る」と言って立ち上がった和人の背中に、順臣は用意していた登山ナイフを突き刺した。「わかったか、わかったか」と叫びながら、ナイフでメッタ刺しし、弟がぐったりとすると「わかってくれたな、な!?」と呼びかけた。

 午後11時15分頃、本富士警察署に110番通報があり、警察官が駆けつける。順臣は血まみれのナイフを持ったまま立ち尽くしており、その場で逮捕された。

 昭和46年3月3日、東京高裁は「心神耗弱ではあったが刑事責任能力はある」として、順臣に懲役6年の判決を下した。

 父親の橋口隆は事件後、鹿児島でお詫び報告会を行うと、同情の声とともに、次期出馬を求める署名運動は2万人以上を集めた。その後、連続6回の当選を果たし、経済企画政務次官、総理府総務副長官、衆議院商工委員長、同内閣委員長、自民党政調副会長などを歴任。05年2月21日、91歳で死去した。
(文=深笛義也)

■深笛義也(ふかぶえ・よしなり)
1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。18歳から29歳まで革命運動に明け暮れ、30代でライターになる。書籍には『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』(すべて鹿砦社)がある。ほか、著書はコチラ

※日本怪事件シリーズのまとめはコチラ

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。18歳から29歳まで革命運動に明け暮れ、30代でライターになる。書籍には『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』(すべて鹿砦社)、『罠: 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった』(サイゾー)がある。ほか、著書はコチラ
Twitter:@giyagiyagiya

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