【死刑囚の実像】生真面目すぎた凶悪犯 ― 元公務員が残忍な殺人犯になった真相を探る

 09年5月12日、東京地裁立川支部(山嵜和信裁判長)は、犯行計画を練り、面識のあった伊丸岡を犯行に誘った沖倉が「終始、主導的な立場だった」と認めたため、沖倉に死刑判決を宣告。一方、いち早く罪を認め、被害者たちの遺体の遺棄場所を白状するなどして事件解決に寄与した伊丸岡に対しては、「心底からの反省と悔悟の態度を示している」と死刑を回避し、無期懲役の判決が言い渡された。伊丸岡は控訴せず、無期懲役判決が確定。沖倉は判決内容を不服として控訴、上告したが、13年12月に最高裁に上告を棄却され、死刑囚となった。

■沖倉から届いた生真面目な手紙

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沖倉元死刑囚の「遺筆」。字にも独特の味わいがある

 2人の殺人犯のうち、筆者が沖倉に関心を抱いたのは、やはりその経歴ゆえだった。沖倉は事件の3年余り前まで市役所に27年も勤め、前科前歴はなく、勤務態度も真面目だったという。そんな男がなぜ、このような凶行に走ったのか。麻雀と市役所退職後のスナック経営の失敗で約4,700万円の借金を抱えていたためとされるが、そもそもなぜ、そこまで身を持ち崩したのか……。

 本人に直接そのあたりの事情を聞いてみたく、東京拘置所に収容されていた沖倉に手紙で取材を申し込んだのは一昨年の秋頃だった。沖倉は当時最高裁に上告中だったが、ほどなく届いた返事の手紙には次のようにつづられていた(句読点以外は原文ママ)。

〈取材についての件ですが、私はまだ現在、話ができる状況ではありません。折角、切手、ハガキまで送ってきていただきましたが、真に申し訳けありません。お許しください。
 今後の片岡様のご活躍をお祈り申しあげます。
 ご希望に沿えないので、切手、ハガキ、返送いたします。ご気分を悪くなさらないでください。

 平成25年10月3日
                                     沖倉和雄〉

 要するに取材を断られたわけだが、手紙の文面には差出人の性格がよくあらわれていた。筆者は刑務所や拘置所に収容された人物に取材を申し込む際は、なるべく切手やハガキを同封するようにしているが、取材を断る際にそれをわざわざ返送してくる人物は珍しい。なぜこんな律儀な男が凶悪な殺害行為に手を染めたのだろうか。筆者は改めて複雑な思いにさせられた。

■忘れた頃に届いた訃報

 この手紙をくれた約2カ月半後、沖倉は最高裁に上告を棄却され、死刑判決が確定。日々の生活に追われる中、沖倉のことをいつしか忘れ去っていた筆者がその名前を思い出したのは、上告棄却からさらにしばらくたった昨年7月初めのことだった。沖倉が東京拘置所で「病死」したという報道に触れたためである。

 報道などによると、沖倉の最終的な病名は「転移性脳腫瘍(しゅよう)」。筆者に手紙をくれた頃はすでに肺ガンに冒されて闘病中だったという。享年66歳。死刑執行されることなく病死するという結末は被害者遺族にとっては不本意かもしれない。ただ、沖倉は裁判で「1日も早く御姉弟(被害者)のもとに行って、謝りたい」と述べていたことから、結果的にその反省の言葉通りの死に方をしたとも受け取れる。近年、死刑の確定から執行までの期間は短くなっているが、沖倉は病死しなければ、まだ少なくとも1年以上は死刑執行されずに生きていられたはずだ。

 この7月2日で一周忌を迎える沖倉和雄。この律儀な殺人犯がガンと闘う中、見ず知らずの筆者にくれた取材お断りの手紙は遺筆として大切に保管させてもらっている。
(取材・文・写真=片岡健)

ノンフィクションライター。全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書に『平成監獄面会記』(サクラBooks)、編著に『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白』(KATAOKA)など。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会記」』(カルトコミックス、作・塚原洋一)が8月8日に発売。
Twitter:@ken_kataoka

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