自殺、拉致、逮捕者… 過激体罰で非行少年を更生させた「戸塚ヨットスクール」を描いた封印映画とは?
■過激すぎる内容と噴出する問題に出演者も戸惑い
・あらすじ
どこにでもある住宅街の一軒家。そこへジャージ姿の男たちがズカズカと上がり込み、部屋にいたニートの少年を無理やり外へ連れ出す。暴れて抵抗する少年を、両親の目の前でボコボコにする男たち。彼らはヨットスクールのコーチで、拉致同然に少年を車で連れ去る。到着したスクールには押入れを改良した檻があり、中には手の負えない非行少女が監禁されているという異様な光景。凶暴な少年は戸塚校長から「ウルフ」と命名され、激しい体罰を受ける地獄の合宿生活が始まる……。
ロケ地は実際のスクール施設を使用し、エキストラに本物の訓練生を出演させ、リアリティーを追及。西河監督は、天尾プロデューサーの希望したドキュメンタリータッチに反し、ノンフィクションドラマ仕立てにした。私は、ともすれば殺伐とするドキュメンタリーよりも、人間描写で暴力描写を緩和する温かみが感じられるドラマ仕立ての方が、映画として正解だと思う。実は西河監督には、登校拒否により高校を中退し交通事故で亡くなった息子がいた。演出には、彼の複雑な心情が込められていると感じる。
だが、俄然雲行きが怪しくなる。1982年、15歳の少年2名が体罰から逃れようと海に飛び込んで行方不明となり、続いて13歳の少年が死亡する事件が発生。そのため、スタッフの間から、「制作を中断するべきではないか」という声が上がった。演じる伊東四朗も、「やって良いものか悪いものなのか疑問だった」と述懐している(『キネマ旬報』1983年7月上旬号)。そして1983年の封切間近、戸塚宏とコーチ15人が傷害致死・監禁致死容疑で逮捕されてしまったのだ。
実はスクールでは、1979年と1980年にも2名の訓練生が死亡していた。よって『スパルタの海』を読んで藁にでもすがりたい親による入校希望者が殺到する一方、スクールを批判する声も多かった。そして逮捕者が出たことで、マスコミはこぞって戸塚ヨットスクールをバッシング。各団体による抗議も行われ、映画は宣伝も試写も行えない状態となり、ついに東宝東和は、『スパルタの海』の公開を断念する。そして1997年、名古屋高裁は「訓練は人権を無視したものであり、教育でも治療でもない」としたうえで、戸塚の懲役6年を始め、コーチら全員を有罪とする判決を下した。
やがて事件の記憶も薄れた2005年、「支援する会」の有志で結成された「スパルタの海 管理委員会」が初の試写会を開催し、東宝東和から著作権を買い取りビデオとDVDが「支援する会」の会員向けに有償頒布された。そして2006年に刑期を終えた戸塚校長がスクールに復帰したのをきっかけに、『スパルタの海』は2007年のシネマヴェーラ渋谷での単館上映を経て、2011年に『アメリ』などで有名なアルバトロス配給で全国劇場公開が遂に実現した(シアターN渋谷の初日には戸塚校長の舞台挨拶も)。2012年には支援者でもある当時の都知事・石原慎太郎の推薦もあり、同社からDVDが市販、2014年には衛星劇場で初のテレビ放送が実現した。封印は完全に解かれたのだ。
■戸塚ヨットスクールのその後
スクールはその後どうなったのか。訓練生の事故は相変わらず続いているようで、2006年、スクールからいなくなった25歳の訓練生が知多湾沖で水死体として発見。2009年、女性訓練生が施設から飛び降り自殺。2011年、男性訓練生が飛び降り自殺未遂。ただし現在スクールでは、拉致同然の連れ去りや体罰は行われていない。
私は事件当時、戸塚宏校長を一方的に悪者にするマスコミに疑問を抱いていた。あらゆるリスクを覚悟で「私が直す!」と強気に問題児たちを引き受ける戸塚校長に、畏敬の念すら抱いていた。実際のフィルムで見た訓練生に対する戸塚校長の繰り出すパンチやキックは、他の映画とは違い、目を疑うほどエゲツなく強烈なものだった。そこには、たったひとりで命懸けの太平洋横断を達成した男の魂が込められていると感じた。そう書くと、尾木ママに怒られそうだけどね(汗)。すみません。
劇中で印象的な会話を再録しよう。途中、立ち直ったひとりの少年が喜々としてスクールを出て行く。
女性職員「ここ、よっぽど嫌なんですね。みんな本当に嬉しそうに出ていくんやもん」
戸塚「結局、誰かが悪者にならないかんのや」
女性職員「でも、いつかはきっとここを思い出して感謝してくれると思ってます」
戸塚「感謝してもらわんでいい。子どもたちが我々を恐れたり憎んだりしで当然なんや。ヨットスクールを憎んで、あの酷い所を生き抜いて卒業したんやという自信が、あの子たちを立ち直させるんや」
(文=天野ミチヒロ)
『スパルタの海』
1983年製作
監督/西河克己
出演/伊東四朗、辻野幸一、平田昭彦、小山明子ほか
■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
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