米国では“ブタ人間”が作られている?動物の体内で人間の臓器を作る「キメラ技術」の恐怖

■動物の体内で育てた臓器をヒトに移植する安全性は?

 では、実際に動物の体内で作られた臓器が移植できるとなった場合、その安全性はどうなのだろうか。

 臓器移植手術の際、特に問題になるのが「拒絶反応」である。血液型や免疫などが適合していても、臓器を移植すると自身の体に「他人の細胞」が入ってくるため、体はそれらを排除しようと免疫細胞が一斉に攻撃を始める。この拒絶反応が巧みにコントロールできないと、移植された臓器の働きが失われ、最悪の場合死に至る場合もあるという恐ろしい反応である。

 我が国におけるキメラ技術の第一人者と言われる幹細胞生物学者の中内啓光教授は、2010年にマウスの体内でラットのすい臓を作ることに成功しており、「げっ歯類と同様に作用するのであれば、ヒトの臓器を持つブタを作ることができるはずである」としていた。

 しかし日本では、人間の細胞を動物に移植する技術が政府の研究指針で禁じられていたため、教授は2013年にキメラ技術へ制限を設けていない米スタンフォード大学に教授として赴任、カリフォルニア再生医療機構(CIRM)からなんと600万ドル(約7億1000万円)もの研究支援金が支給されているのだ。インタビューで中内教授は「日本の規制により自身の研究が2年以上遅れた」と明かしており、リスクはとらない、という日本特有の体制を指摘している。

 現在、中内教授は患者自身の細胞から臓器を作るiPS細胞を使用した研究を行っているが、iPS細胞から成長した臓器は、たとえ動物の体内で成長したとしても完全な移植臓器として適合するという。また臓器不足という現状から、移植手術までに何年も待たなければならない現状があるが、このキメラ技術により移植臓器を1年以内に作り出すことが可能になるということだ。


 生命倫理的には限りなくグレーに近いキメラ技術であるが、臓器を待ちわびているドナーからすれば、新たな光ともいえる技術だろう。さらに研究が進めば、人間の病気を持つ動物を作り出し、その病因を解明することができるようになるかもしれない。これからの医学の進歩と、議論の進展から目が離せない。
(文=遠野そら)


参考:「Before It’s News」、「科学技術振興機構」、ほか

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