米国では“ブタ人間”が作られている?動物の体内で人間の臓器を作る「キメラ技術」の恐怖

■倫理的問題は?

 しかしながら、「動物の体内でヒトの臓器を育てることは、人間や動物の『種』としての尊厳が揺らぎ、道徳的にも許されるものではない」として生命倫理に問題が生じる可能性を指摘する声もあがっており、米国立衛生研究所(NIH)も2015年9月、当初の方針を変更して「ヒト-動物」のキメラ技術に対し、科学的かつ社会的影響を慎重に検討するまで研究支援金を打ち切ることを発表している。

 米国立衛生研究所は、最終的にヒトの脳細胞が使用された場合、その動物の認知状態が変わってしまう可能性を懸念しており、ヒトの幹細胞を取り込んだキメラ動物が、高い知能や人間の体を保持したまま産まれてくる可能性も否めないということだ。

 同所は、声明の中で「キメラ技術により生まれた知能の高いマウスが我々に『ここから出してくれ』と、ゲージの中から話しかけてくる日が来るかもしれないことを恐れている」と述べており、この研究に対して慎重な姿勢を見せている。

 しかしながら、中絶や流産した胎児から集めた組織を生後まもないマウスに移植し、人間の免疫システムを備えた“ヒューマナイズド・マウス”が、すでに医科学技術の面で幅広く使用されているのが現状だそうだ。

 このような現状を踏まえたうえで、米国立衛生研究所の意見に対し、米ミネソタ大学の心臓内科医ダニエル・ギャリー博士は、「キメラ技術の研究は、新たな臓器を待つ患者らにとって希望である」と語っており、今回の支援金打ち切りは「未知なる進歩への恐怖であり、これからの技術の進歩に否定的な影を落とす」と真っ向から批判している。

心臓のない動物でも作れる」と語るギャリー博士は、これまでにも骨格筋や血管のないブタを作り出してきたといい、現在はヒトの心臓をブタの体内で育てる「ヒト-ブタ」のキメラ研究のため、米陸軍から研究費として140万ドル(およそ1億6000万円)の研究支援金を得ることに成功している。

 意見の分かれるキメラ技術であるが、この研究は今後の幹細胞生物学や遺伝子操作技術の突破口になる可能性もある。カリフォルニア州・ミネソタ州に点在する3カ所の研究チームをインタビューした、「MITテクノロジーレビュー」によると、過去12カ月間で出産には至らなかったものの「ヒト-ブタ」「ヒト-羊」のキメラの妊娠が20件確認されていたそうだ。ほかにもカリフォルニア州にあるソーク研究所のジャン・カルロス・ベルモンテ博士が、これまでに12件以上の「ヒト-ブタ」キメラの妊娠に成功したと発表しており、ヒトの幹細胞を持った動物の出産に向けて研究を進めているという。

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