今は中国製品の方が日本よりも面白い!? メディアアーティストが語る「モノづくりにおける日本の勢い」
今から33年前、宮﨑駿監督がリリースしたアニメ「風の谷のナウシカ」。その中に出てくる夢の小型飛行機メーヴェを16年かけて自ら開発した鳥人または超人がいる。その名も、八谷和彦(50)さんだ。
今回トカナは、現在メディアアーティスト・東京芸術大学美術学部先端芸術表現科 准教授として活躍する八谷氏にロング・インタビューを敢行。メーヴェ開発に至る思い、超現実のVR開発や急速なAIの進化における第4次産業革命シンギュラリティに至る未来、小型ロケットビジネスから、ユニークな作品を生み出す成功哲学までに迫った。
――今と昔で、ものづくりをする人の性質は変わっているのでしょうか?
八谷 ホンダの“生みの親”である本田宗一郎さんとかは、相当やんちゃな人だったので、戦後すぐ、自転車にエンジンをつけて奥さんを最初のテストライダーにして公道走らせたりとかしていたといいます(笑)。今だったら安全性の観点から許されないですよね。でも、戦後すぐの物資がない中では自由だったし、これが売れた。
今の中国を見ると、日本の戦後20~30年はこんな感じだったのだろうな…と思いますよ。今の中国は、すごい変なモノをいっぱい作っているんですよね。もちろん、他国の製品の真似もあるとは思うのですが、その中からすごい面白いモノも出てきている。
でも、今の日本にはそこまでの勢いがないから、僕らみたいな少し変わった開発者の活躍が目立つのかもしれません。
――日本はリスクある開発が減っているということでしょうか?
八谷 そうですね。普通の会社がリスクを取らない理由も2つあると思っていいて。単純に「高齢化」したということ。社長が若かったらやっぱりもうちょっとイケイケみたいな感じになるかと思うんです。もう1つは全体的に「コンプライアンス意識が強くなりすぎた」という両方じゃないですかね。
例えば、これ、iPhoneを入れて使うプロジェクターなんですけど。
――え!? こんな小さいんですか?
八谷 僕がよく買い物をする秋葉原には、変なモノばかりを扱っている会社があって。「サンコーレアモノショップ」っていうのですが、そこは時々こういう面白いものを出してくるんです。
――これはどこの会社のものですかね?
八谷 わかりません。メーカー不明です(笑)
――日本製?
八谷 いや当然中国製ですよ、こんなの(笑)。こんなのっていい意味で言ってますけど。ほら、背景が白いと結構ちゃんと映るんですよ。
――ほんとですね。
八谷 ここで「※ポストペットVR」を映してみましょう。テスト版があるので。
※「ポストペット」とは、インターネットが一部のマニアのものだった当時、ペットを使ったコミュニケーションという新しい楽しみ方を提供し、それが幅広い層に受け入れられ爆発的なヒットを記録した八谷氏の開発品。以来バージョンアップを繰り返し、累計出荷数は1,500万枚
――ちなみにこのプロジェクターのお値段は?
八谷 39000円くらいですね。普通のプロジェクター(4~5万円)の方が映りは全然いいんですけどね。とにかく、最近買った面白いものはみんな中国製になりつつありますね(笑)。中国南部の深圳(シンセン)という“中国のシリコンバレー”でスピード感をもって作られているという話もありますからね。
――ほかにも中国製品で面白いものはあるのでしょうか?
八谷 最近買った面白いものの1つは、ミニセグウェイこと「ナインボットミニ」ですかね。アメリカのセグウェイ社って倒産してて、その後、中国のナインボットっていう会社が買ったんですね。そのナインボットに出資しているのが、シャオミという携帯電話開発グループです。今は失速していますが、一時期は“中国のアップル”とか言われていましたね。で、そのナインボットが小さいセグウェイみたいなのを出しているんです。それがちょっと良いかもと思ってヤフオクで買ったんですけども、使ってみるとかなり良くって。全然これでいいじゃん、みたいな。セグウェイは、当時60~70万でしたが、これは10分の1くらいの値段になっているんですね。70万円なら買わないけど、5~6万円だったらこれ買うと思いましたね。東京芸術大学の取手校地は結構広いので、大学内を移動するのに便利で使ってます。
八谷 日本でも、ホンダやトヨタが個人用の移動手段を研究開発していたんですけど、道路交通法的にも厳しかったということもあり、結局は売ってないんですよね。まあ、予定価格が20~30万円だったので、売っていたとしても、中国製の5万円には敵いませんからねえ…。それにしても、ナインボットミニはよくできていますよ。
――楽しそうですね。八谷さんは、少年のような心を持ち続けられておりますが……。
八谷 戦後すぐ位の時の日本は、色んな人がみんな少年の心をもっていて、ちょっと不便を感じると「やったれ」みたいな、ある種、野蛮な感情を持っていた気がするのですが、今は、そういう人が少ないですからね。だから、僕がひときわ少年のように見えるのかもしれません。
――日本の開発畑に勢いがない理由は何でしょうか?
八谷 ホンダが、自転車にエンジンくっつけたみたいな自動二輪の開発をしてたころは、国内にもバイクのメーカーや自動車メーカーがたくさんあったのですが、最終的には数社に集約されて、最後に生き残ったのが、今の大きな自動車メーカーだったりするんですね。でも、大きくなると上場もするわけですから、どうしても保守的になってしまう。それが、“勢いが落ちる”ということにつながるのでしょう。
――個人では、研究資金を維持しながら開発するのは難しいですからね…。
八谷 たしかに、お金がないのに何か作るというのは普通は無謀と思うんですけど、自分が作りたいものの中に、誰かの役に立つもので、みんながほしいと思うであろうものがあれば、それは試す価値があります。一緒に制作してくれる協力者を探すといいと思いますね。
「ポストペット」も、1人で作って1人でリリースしようとは僕も考えていなかったわけです。だから、チームを作って開発して、プロバイダーと組んでリリース……と考えたんです。当時プロバイダーはどこも会員を獲得したいけど、各社の特色がなかった。だって、プロバイダーですから差異化できるのは速度や価格しかなかった。だから、例えばSo-netならメールでポストペットのアカウントが使える…とか、ポストペットがただで貰える…とか、そういう特典をつけることで、他のプロバイダーと差別化できるのではないかと思ったんです。そしたら、So-netが気に入ってくれて、採用して開発費を出してくれたというのがポストペットの成り立ちなんです。
みんなの生活の中には、必ずどこかに不満はあるはずじゃないですか。例えば今でも。だから、そこを解決するものだったり、自分だけが気づいている超面白いことがあって、それを多くの人に広めるために自分が何か貢献できるのであれば、そこにお金はつくと思うんですよね。
ちなみに、中田(記者)さんは今おいくつくらいですか?
――32です。
八谷 じゃあぼくと18歳違うので、ちょっと当時の状況はあんまりわからないと思うんですけど、ポストペットが20周年だから17、8とかですよね。
――そうですね。
八谷 その頃は、パソコン通信はあったけど、普通の人は誰もPCのメールなんて使ってない時代でしたけど、ブラウザのモザイクやネットスケープが出たした頃で、インターネットメールは“これからきそうな感じがする”という時代だったんですよね。そういう“きそうなもの”っていつの時代でもあって、今だったらAIやVRですよね。だから、お金がなくても、そういうところに目をつけて、世の中が盛り上がりそうなものを狙って、かつ自分が心から研究したいと思うものを作れば、お金はついてくると思います。
次回はいよいよ今話題のVRとAIの未来予想に迫る。
(取材・文=中田雄一郎)
●八谷和彦
1966年4月18日(発明の日)生まれの発明系アーティスト。
九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)卒業。コンサルティング会社勤務後(株)PetWORKs を設立。現在にいたる。
作品に《視聴覚交換マシン》や《ポストペット》などのコミュニケーション・ツールや、ジェットエンジン付きスケートボード《エアボード》やパーソナルフライトシステム《オープンスカイ》などがあり、作品は機能をもった装置であることが多い。また、311震災以後は「ガイガーカウンターミーティング」などサイエンス・コミュニケーション系の活動もちらほら。
2010年10月より東京藝術大学 先端芸術表現科 准教授。
・現在、ポストペットの新タイトル、PostPetVRのクラウドファンディングを展開中。
・https://camp-fire.jp/projects/view/14723
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