「読むだけで知覚が変わる」本がある! 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る“俳句と哲学”
北大路 2年前に出した句集『天使の涎』(邑書林・2015年)の時はもっとエロ描写がキツかった。性的な句やセックスを直接詠んだ句も多かった。でも飽きてくるのかな。自分の感覚と合わなくなってきて。
千葉 今回の『時の瘡蓋』の方が抽象度が上がっていますね。『天使の涎』は乱暴ないい方ですが、季語+下ネタみたいな、わかりやすさがありました。
業務用ローションの缶落葉焚く
おしぼりの山のおしぼり凍てにけり
猫交る花園神社に向き尿(いば)る
(『天使の涎』より)
北大路 歌舞伎町で見る「業務用ローションの缶」や「おしぼり」なんかもう簡単には使えないよね。単語自体が印象的過ぎて。
千葉 歌舞伎町で目に入るオブジェクトを季語と合わせて句を作ってたってことだよね。
北大路 見たものをそのまま詠むことが、俳句の「コツ」になります。見たままを詠むというのは千葉さんのいうところの思考の停止、中断なんです。考えると堂々巡りになってしまうところを視覚で思考をいったん強制終了するというか。いわゆる「写生論」は何をどう写すかということに重点が置かれてきましたが、本当に大事なのは中断装置としての写生なのだと、『勉強の哲学』を拝読してピンとくるものがありました。
千葉 なるほど! 北大路さんの俳句を読んでいると、季節の雰囲気が「パンティーのしみ」や「ローションの缶」と一緒になって異化するんですよね。そもそも詩って“異化効果”を発揮するものでしょう。北大路さんの句は基本に忠実なんですね。だからこの句集を読んだ後に、周りを眺めたり、外に出たりすると知覚が変わる。普通じゃなく感じられて、自分もなにか言いたくなってくる。メガネを付け替えたみたいなイメージかな。
北大路 そう思っていただけるのは一番うれしいですね。パラダイムチェンジこそが、文学、表現の役割だと思っています。
痛み止め飲んで大根買ひにいく(『時の瘡蓋』より)
――唐突な質問ですが、俳句の勉強ってあるんですか?
北大路 作るしかない。そうすれば、直感的にわかってくる。普通に作ると月並みな俳句になっちゃうから、そこからズラすんだね。ユーモア、アイロニーもズラし方の一つの方法だと思う。千葉さんの『勉強の哲学』にはそのあたりのことが、冷静に書いてある。
千葉 その本では、「なんなんだ」という方向にちゃぶ台をひっくり返すアイロニーと、比喩的に別の方向、捉え方をしてみるユーモアという大きくふたつのやり方を出しています。北大路さんにも句作に関わると言われたし、短歌の人たちにも歌論として読めると言われましたね。
北大路 言語に関することだから歌論、俳論として相性がいいんでしょうね。
視点をズラすことで世界が変わって見えるはず――俳人×哲学者対談の第1弾はこうして締めくくられた。第2弾は「老化とモチベーション」について語る。
◆プロフィール
◆北大路翼(きたおおじ つばさ)
1978年、横浜市生まれ。歌舞伎町俳句一家『屍派』家元。小学5年生のころ、種田山頭火を知り、俳句を作り始める。2012年芸術公民館を会田誠から譲り受けて、『砂の城』と名付け経営する。著書に、第一句集『天使の涎』(邑書林)、北大路翼句集『時の瘡蓋』(ふらんす堂)がある。
公式ツイッター @tenshinoyodare
◆千葉雅也(ちば・まさや)
1978年、栃木県生まれ。哲学者。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学を経て、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門はフランス現代思想及び哲学・表象文化論。現在は、立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。著書に『動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)、『別のしかたでツイッター哲学』(河出書房新社)『勉強の哲学 来たるべきバカのために』(文藝春秋・2017年)など多数。
公式ツイッター @masayachiba
◆松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。編集者・ライター・世界のマイナー酒・居酒屋研究家。大学在学中からライターをはじめ、その後、雑誌記者、出版社勤務を経てフリーで活動する。テーマは旅、酒、サブカル、趣味系など多数。著書『泥酔夫婦 世界一周』(オークラ出版)が発売中。・ブログ~世界一周~旅の柄:http://tabinogara.blogspot.jp/
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2024.10.02 20:00心霊「読むだけで知覚が変わる」本がある! 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る“俳句と哲学”のページです。北大路翼、松本祐貴、哲学、俳句、千葉雅也などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで