エレシュキガルの激しすぎる恋とセックスの神話が泣ける — メソポタミア冥界の女王の神話を徹底解説!(後編)
■エレシュキガルの妹「イナンナ/イシュタル」
最後に、エレシュキガルの妹であり、メソポタミアのシュメル・アッカドをはじめ、古代オリエント全域で崇拝されていた女神「イナンナ/イシュタル」について、簡単にご紹介しましょう。
このふたりはまず、本来は同一の存在であり、「イナンナ」という、シュメール神話における愛、美、戦い、王権、豊穣など、様々な分野を守護する女神でした。
イナンナはシュメール時代の神話「イナンナ女神の歌」において特に戦いの女神の側面を強調されており、母親の胎内にいた頃から2本の武器「シタ」「ミトゥム」を手にしていたといいます。これらは槌矛(メイス、殴り付ける武器)で、シタには「7つの頭を持つ、光り輝く槌矛」、ミトゥムには「頭部に天のライオンをかたどった槌矛」という記述が存在しています。
イナンナはシタとミトゥムを振るって様々な活躍を見せます。例えば自身に敬意を表さない大きな山に戦いを挑み、山を崩壊させてしまうなど相当な逸話があり、神話内において「戦いでは誰も刃向かえぬ主」と表現されるほどの武勇を持つ女神であったようです。
一方でイシュタルは、イナンナが各地で崇拝を集めているうちに、イナンナと各地の女神が習合合体(一体化)されたことで、地方ごとに様々な特性を持つに至っている存在です。イシュタルに関しての神話は数多く残されていますが、その地方によってイシュタルの特性が異なっており、ここから複雑かつ多様な側面と性格を持つようになりました。
イシュタルは非常に広い地域において、かつ篤い信仰を集めていました。ですが時代が進むと、その名を広く知られる古代メソポタミアの文学作品『ギルガメシュ叙事詩』において、イシュタルは英雄ギルガメシュによって淫乱さや残酷さを挙げて徹底的に侮蔑・嘲笑されています。
この表現からは、ギルガメシュ叙事詩が成立した時代において、イシュタルが本来のイナンナとして持っていたはずの「豊穣の大地母神」「王権の象徴」という特性を喪失していたことが伺えます。
簡単にまとめてしまうと、「イナンナ」という女神が元々あり、それが様々な地方で信仰の形を変え「イシュタル」という女神になった、と捉えておけばよいでしょう。
日本的にたとえるならば、ヒンドゥー教の女神「サラスヴァティー」が、仏教に取り込まれて「天部(仏教の守護神)・弁財天」となり、日本に伝わった後「財運をもたらす七福神の紅一点・弁財天」になった、というのに近いでしょうか。
たけしな竜美
オタク系サブカルチャー、心霊、廃墟、都市伝説、オカルト、神話伝承・史実、スマホアプリなど、雑多なジャンルで記事執筆、映像出演、漫画原作をしています。お仕事募集中です! Twitter:https://twitter.com/t23_tksn
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2024.10.02 20:00心霊エレシュキガルの激しすぎる恋とセックスの神話が泣ける — メソポタミア冥界の女王の神話を徹底解説!(後編)のページです。シュメール神話、女神、たけしな竜美、イシュタル、エレシュキガル、冥界などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで