エレシュキガルの激しすぎる恋とセックスの神話が泣ける — メソポタミア冥界の女王の神話を徹底解説!(後編)

■ネルガルとエレシュキガル

 使者からの明確な殺意を受け取ったネルガルは、弓矢や油を塗った革紐などで武装、準備を整えてから冥界へと向かいました。そして7つの門と門番を次々に突破しながら下って行き、はじめて来た時に挨拶をした、エレシュキガルの庭へと飛び込みます。

 そしてネルガルはエレシュキガルの座る玉座の前まで進み、そして笑い、彼女の結い上げられた髪の毛を掴んで玉座から引き倒します。そのまま首をもぎ取ろうとしたネルガルに対し、エレシュキガルは抵抗らしい抵抗もせず、ただ涙ながらに訴えるのみでした。

「私を殺さないで下さい、どうか話を聞いて下さい」

 ネルガルが手を緩めると、エレシュキガルは泣いてすがりつき、こう続けます。

「どうか私の夫になって下さい。あなたに冥界の王権を掌握して頂きたいのです。あなたが主人となりましたら、私は女主人になりましょう」

 これを聞いたネルガルは、エレシュキガルを抱きしめて口づけし、涙を拭いてやり、こう言います。

「あなたが何ヶ月も前からずっと、私に望んでいたことが実現するのだよ」

 かくしてふたりは、再び激しく思いを交わすべく、荒々しくベッドへと入るのでした。後にネルガルは正式に結婚して冥界の王となり、エレシュキガルはそれを補佐する女主人になったといいます。

■まとめと神話の語るところ
 さて、冒頭で挙げましたこれら属性に関して、ご納得は頂けましたでしょうか。

・美しい女神イナンナ/イシュタルの姉であり、また男神を簡単に誘惑しているところから、同等の美貌を持つ女神である可能性が高い
・底無しの性欲の持ち主
・小さな頃から遊びのひとつも知らずに育った、筋金入りの箱入り娘
・惚れた男には一途かつ従順。ただし逃げればどこまでも追いかけ、その手段は問わない

 このように「ネルガルとエレシュキガル」におけるエレシュキガルは、前回にてご紹介した、イナンナ/イシュタルに激怒して荒々しく死の力を振るう、冥界の女王エレシュキガルとはまったく異なる姿で描かれています。

 冥界に閉じ込められることを嫌って逃げ出したネルガルに惚れ込み、天界の神々を脅してまで想い人を取り戻そうとするエレシュキガル。それに対して完全武装の暴力で対抗されるものの、抵抗もせず涙ながらに訴えるエレシュキガル。一途な恋心というか、共依存というか、非常に興味深く面白い神話ではないでしょうか。

 ところで「ネルガルとエレシュキガル」に関しては、神話のあらすじとは別に「冥界とそれ以外の領域の行き来には厳しいタブーがあり、神といえどもそれを犯すことは不可能」と繰り返し強調されています。

 また「地上に死者を送って生者を殺させ、死者を増やしてやる」と天界の神々を脅す点は、日本神話におけるイザナギとイザナミの逸話との共通性が指摘されています。

 エレシュキガルはこの神話から、性愛の女神としての一面も併せ持つ、とされているようです。

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