21年間“封印”された激ヤバ映画! 覗きで性的興奮を得る快楽殺人鬼を描いた傑作「ピーピング・トム」
ある日の映画撮影。マークは主演の代役女優に被写体を依頼し、スタッフが帰った後のスタジオに来てもらう。スターを夢見る彼女がミュージカル風に踊り出すと、これがキレッキレ。それもそのはず、彼女は過去にパウエル監督の『赤い靴』で主演を務めたモイラ・シアラーだ(30代半ばの大スターが新人女優役とは)。陽気に振る舞っていた彼女は、マークのただならぬ気配に怯え出すが、気付くのが遅かった。翌朝、映画の撮影中、大型トランクを開くシーンで、中から女優の死体が発見され大騒ぎになる。それを数秒前からマイカメラで撮影しているマーク。現場に駆け付けた刑事たちはその恐怖に満ちた死に顔を見て、娼婦殺しと同一犯と睨む。
マークに好意を抱く娘に、視覚障害者の母親は常に鋭い聴覚で階上のマークを分析していて、「コソコソしていて信用できない」と忠告する。「内気なのよ」と聞く耳持たないヘレンはマークの部屋を訪問。童話作家の夢を語り、マークも「読みたい!」と話が弾む。リア充一直線のマーク! 女を殺しまくっている場合じゃない。
ヘレンとの初デートから帰宅したマークが、真っ暗な部屋で殺人フィルムを見ようとすると、人の気配が。照明をつけると、そこには何とヘレンの母親が! なぜかマークは、不用心にも常に施錠せず外出している。母親は「いつも、何を見ているの?」。階下で映写機の回る音を聞いているのだ。母親には何もかも見透かされているのではと、ビビリまくるマーク。一触即発の緊迫の中、「見る者」と「聴く者」の異種心理戦が展開する。母親役のマキシン・オードリーは脇役専門だが、キャリア以上の存在感を出している。
マークは愛するヘレンのために、心の病を治そうと精神科医に相談する。そこで初めて自分が、覗きで性的興奮を覚える窃視症であることを知る。彼の場合は「快楽殺人」もプラスだから最悪だ。そしてラスト、マーク不在の部屋にヘレンが入り、つい映写機に掛かっているフィルムをスタートさせてしまう。ワクワクとスクリーンに見入るヘレンだが、その顔がみるみる曇っていく。椅子から立ち上がり後退りすると、そこにはマークが!
双眼鏡で向かいのアパートを覗くヒッチコックの『裏窓』(54年)、本作で悲劇のヒロインを好演したアンナ・マッセイが出演した、やはり連続殺人鬼物のヒッチコック作品『フレンジー』(72年)も併せて見ると面白いかもしれない。
さて本作は性的・暴力的な描写に批判が集まり、パウエル監督と共に映画界から葬り去られてしまうが、彼をリスペクトするマーティン・スコセッシは、1970年代から『血を吸うカメラ』を称賛し続けた。さらに1990年の監督没後、ジョージ・A・ロメロ、フランシス・フォード・コッポラ監督らがパウエルを「影響を受けた監督」と言及。もともと名監督のパウエルは再評価され、本作は名作の仲間入りをするのであった。
■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
ウェブ連載・「幻の映画を観た! 怪獣怪人大集合」
★天野ミチヒロの封印映画レビューまとめ読みはコチラ
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊21年間“封印”された激ヤバ映画! 覗きで性的興奮を得る快楽殺人鬼を描いた傑作「ピーピング・トム」のページです。サイコ、ジョージ・A・ロメロ、フランシス・フォード・コッポラなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで