なぜいま縄文がブームなのか、理由を暴く映画『縄文にハマる人々』監督インタビュー! 縄文土器&土偶1000点以上登場!

 7月7日公開予定の、山岡信貴監督の新作映画『縄文にハマる人々』が話題だ。その理由はいま日本でブームとなっている縄文をテーマにしているからである。「縄文って、本当に流行っているの?」と思う人もいるかもしれないが、ここ数年の縄文関連書籍の数の多さ、縄文を銘打ったイベントや商品の数々、「縄文」をキーワードにすれば、考古学からファッション、アート、スピリチュアルまで、特に女子にも大いに受けているのも特徴だろう。そんな縄文ブームの渦中に、監督自らがカメラ片手に足を踏み入れていくというのがこの映画だ。

 そして、次々に登場する縄文ワードの数々、宇宙人地球飛来説を裏付けるような奇妙な土偶たち、実用から程遠い異様な造形の土器、その膨大すぎる出土数、日本全国に分布し1万年も続いた謎の時代。全国100ヶ所を巡り、1000点以上の土器&土偶を紹介しながら、監督・山岡信貴自身が縄文に魅せられていく。独自の存在感を放つコムアイのナレーションに誘われるまま、縄文の世界観にヤラられ、見慣れた風景が一変していく――。

 山岡監督といえば、難解で知られる現代美術家・荒川修作を独自に読み解いた映画『死なない子供、荒川修作』で高い評価を得ている。今回は、謎多き縄文時代を相手にどんな“読み解き”をみせてくれるのか。その鑑賞のポイントを監督自身に聞いた。

なぜいま縄文がブームなのか、理由を暴く映画『縄文にハマる人々』監督インタビュー! 縄文土器&土偶1000点以上登場!の画像2画像は、山岡信貴監督

――最初からストレートに聞きますが、監督ご自身は縄文にハマっているのでしょうか?

山岡監督(以下、山岡)「確実にハマりました。でも最初は“縄文好きの人って、すぐにエコとか言い出して、ちょっと偏った考え方を持っているんじゃないか…”って、距離を取っていたところもあったんです。それが、実際に遺跡や博物館に足を運んで見ると、その造形の素晴らしさや現代人の視点でみてもいろいろと感心させられるものに出会えたりするので、だんだんとやめられなくなって」

――もっと具体的に、監督が縄文にどっぷりとハマっていくきっかけはいったい何だったんでしょうか?

山岡「誰でも縄文土器や土偶を写真で見て知っているから、縄文時代のことって、だいたいわかっているのかなって思っていたんです。でも、たとえば、博物館で、この道具は祭りや呪術で使われたと説明書きがあっても、『じゃあ、どんな祭りや呪術を行なっていたのか』ということについては、全然わかっていない。一番びっくりしたのが、縄文中期の土器。一応、それらは鍋として使われていたとされてますけど、現代人であの土器を日用品として使おうと思う人はほぼいないんじゃないか。そこら辺から、スイッチが入り始めましたね」

――土偶よりも土器なんですね。最初に土器の実物を見に行かれたのはどこですか?

なぜいま縄文がブームなのか、理由を暴く映画『縄文にハマる人々』監督インタビュー! 縄文土器&土偶1000点以上登場!の画像3画像は、釈迦堂遺跡博物館蔵

山岡「うちから一番近いという理由で、東京都埋蔵文化財センターでした。あそこは土器に触れるんですよ。触ったときにグッときましたね」

――それでも、縄文でひとつの映画を撮ろうというのは、結構、大きなプロジェクトだったと思うんですけど。

山岡「最初の一年半くらいは、映画化することはあまり考えてなくて。いろいろまわっているうちに、自分が縄文にハマって行く過程を見せたら、観ている人もハマってくれるかなと思うようになりました。あとは、野焼きをやっている陶芸家の猪風来(いふうらい)さん、縄文土器の修復をやっている堀江武史さんの話を聞いたとき、学者さんたちとは違う視点を入れれば、全体を構成できるかなと思うようになりました」

――コムアイのナレーションのなかで「わたし」という一人称が使われていますけど、あの「わたし」って誰でしょうか? 

山岡「縄文時代から現代まで続く「わたし」ではあるんですが、強いて言えば現代の私たちに近い『わたし』ですかね。縄文時代の「わたし」は今とは違っていたと思っているので」

――今回の映画を作っていく過程で、監督自身、縄文人の声が聞こえてきたりとか、そういうことはあったんですか?

なぜいま縄文がブームなのか、理由を暴く映画『縄文にハマる人々』監督インタビュー! 縄文土器&土偶1000点以上登場!の画像4(c)縄文にハマる人々

山岡「そうなって欲しかったんですけど、聞こえなかったですね。ただ、この映画を撮り始めてから、自分の運気が上がった気はします。映画の上映が、東京国立博物館の『縄文』展とたまたま同じタイミングになったり。縄文の遺跡って、実はパワースポットというか、風水的にもいい場所ばかりなんです。日本全国、そんなところばかりをまわっているわけですから、自分の気の流れも良くなって、運が向いてきたのかなとは思っています」

――縄文にハマると人は幸福になるってことですか?

山岡「断言できませんが、主観的には、間違いなく幸福になってます。今回の取材で会った人たちもみんないい人ばかりでした。だから、現代とはまったく異なる縄文という世界観を知ることで、生きることの可能性の幅が広がっていくところはあると思います」

――縄文といえば、岡本太郎さん。一方で、岡本さんの盟友でもある荒川修作さんの映画を山岡さんは撮られています。そこら辺と縄文のつながりはどうでしょうか?

山岡「今回、自分が縄文にハマってみて、岡本太郎さんの気持ちはわかりましたね。太郎さんも縄文にハマってから沖縄行ったり、日本全国を旅してましたから。それに対して、荒川修作さんは縄文そのものについては何も言ってないんですけど、『死なない』ために建築やアートを作っていた点では、縄文人と似たところがあったような気がします」

なぜいま縄文がブームなのか、理由を暴く映画『縄文にハマる人々』監督インタビュー! 縄文土器&土偶1000点以上登場!の画像5茅野市尖石縄文考古館

――荒川さんの三鷹天命反転住宅とか、床がデコボコしていて、縄文土器に似ていますよね。デコボコしていると不便だけど、常に生きていることを実感せざる得ないというか。

山岡「僕も荒川さんの映画のときは、あの反転住宅に4年くらい住んでいました。実は、構造は竪穴住居に似ています。住んでみると、結構、物の置き場に困るので、ハンモックみたいにして物をどんどん吊っていたんですよ。だから、竪穴式住居も実はいろんなものを天井から吊っていたんじゃないかと想像しています」

――それ新説なんじゃないですか? 監督も復元住宅を作ってくださいよ、ミニチュアでいいですから。

山岡「自分も土器は作ってみたんですけど、あの曲線って、視覚的なイメージから出てきたというよりも、身体の動作を形に置き換えてできていると感じました。体感的に出てくる形なのなかって」

――なるほど。映画の終盤では、池上高志さんの話の流れで、縄文人は人工生命を作ろうとしていたんじゃないかというところまでイッちゃってます。

山岡「土器作りは、人工生命を作る行為だったと考えると、現代人にも理解できるかなって。土器は人工生命という説明が自分としても一番納得できたんです。そう考えるとあの過剰さは装飾とは全然違う、生命を宿らせるために必要だったということですよね」

なぜいま縄文がブームなのか、理由を暴く映画『縄文にハマる人々』監督インタビュー! 縄文土器&土偶1000点以上登場!の画像6

――縄文を考える場合、過去を振り返るだけじゃなく、日本の未来に繋がっていくところもあると思います。未来の「わたし」はどうなるのでしょうか? 

山岡「土偶は宇宙人だっていう人もいますけど、僕は別に宇宙人でもいいんです。ただ、僕は宇宙人と会ったことないからわからないだけで。自分の体験としても、縄文という世界観を通過すると、私が変わるというか。つまり、僕らの現代の生活って、5千年後に発掘されたとしたら、面白いんだろうか? そう思ってしまうんですよ。僕からすれば、全然面白くない。そこまで考えて観てくれると、映画を観終わって外に出ると、いままでの現実は全然違って見えてくると思うんですよ。そこからどれだけ変わっていけるのか、それが縄文というものに触れたことによる驚きであり、効用であると思うんですよね」

――おおっ、古くて新しい縄文、それに対する興味は尽きないですよね。

【映画情報】
『縄文にハマる人々』
監督:山岡信貴
ナレーション:コムアイ(水曜日のカンパネラ)
エンディングテーマ:森は生きている
キャスト:小林達雄、佐藤卓、いとうせいこう、猪風来、小山修三、小杉康、池上高志、デニス・バンクス
配給:リタピクチャル
2018年 / 102分
2018年7月7日(土)より渋谷イメージフォーラムほかにて全国ロードショー!!

【公式HP】
http://www.jomon-hamaru.com

山岡信貴(やまおかのぶたか)
1993年に初長編映画「PICKLED PUNK」を監督。ベルリン映画祭ほか多数の映画祭に招待上映される。以後も実験的なスタイルを貫きながら定期的に作品を発表し続けつつ、携帯電話キャリアと共に視覚の心理状態への影響の研究やデバイス開発等、サイエンスの分野にも積極的に取り組んでいる。2013年にはロサンゼルスのIndependent film makers showcaseにて全長編作品のレトロスペクティブが開催された。

フィルモグラフィ(長編映画)
「PICKLED PUNK」(1993年) ベルリン国際映画祭他正式招待作品、「Zeki, Florian and Kelly!」(1997年) マドリッド国際映画祭他正式招待作品、 「PIG’S INFERNO」(2000年) リオデジャネイロ国際映画祭他正式招待作品、「ソラノ」(2005年) シンガポール国際映画祭他正式招待作品、「天然性侵略と模造愛」(2005年) プサン国際映画祭他正式招待作品、「死なない子供、荒川修作」(2010年) ハンブルグジャパンフェス招待作品

文=ケロッピー前田

1965年、東京都生まれ。千葉大学工学部卒、白夜書房(のちにコアマガジン)を経てフリーに。世界のカウンターカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『BURST』(白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。その活動は地上波の人気テレビ番組でも取り上げられ話題となる。著書に『クレイジートリップ』(三才ブックス)、『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)、責任編集『バースト・ジェネレーション』(東京キララ社)など。新刊本『縄文時代にタトゥーはあったのか』(国書刊行会)絶賛発売中!

公式twitter:@keroppymaeda

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