2021年2月8~14日にかけて、東京・神保町のギャラリーCORSOで「私たちは消された展2021」が開催される。その名が示す通り、展示されているのは全てSNSに投稿すると「過激すぎる」「エロすぎる」と警告され、強制的に削除されてしまったアート写真ばかりだ。
今年で第3回目を迎える「私たちは消された展」だが、第1回目では来場者が作品を撮影した写真をSNSに掲載すると、さらに警告を食らったという。さながら「ミイラ取りがミイラになった」ような話だか、そこまで凄まじいインパクトを放つ異色の展覧会なのだ。今回は主催者である“扇情カメラマン”こと酒井よし彦氏に、「私たちは消された展」を開く真意、その影響力について伺った。
■突然アカウントを消される作家たち
――すでに3回目となる「私たちは消された展」(以下、「消された展」)ですが、そもそも企画したキッカケはどのようなものだったのでしょうか?
酒井よし彦氏(以下、酒井) 私は女性の裸をメインに撮っている写真家です。そういった作家たちは、自分の作品をSNS、主にフェイスブック、ツイッター、インスタグラムに載せるとアカウントを消されてしまうことが多いんです。最近では規制が緩くなったのか、(載せようとすると)最初に警告文が入りますが、以前は突然アカウントごと消されていました。
私は当初、「SNSという他人のプラットフォームを使っているので仕方がない」と考えていたのですが、あるとき知人が投稿した写真が消され、問題意識を抱いたんです。それは、人物写真の横にたまたま乳房のカレンダーが写り込んでしまった写真で、それでも強制的に削除されていました。「これは誰が『エロい』と判断して消しているんだろう? 面白いから、このまま展示にしてしまおう」とSNSに投稿したら、同じような経験のある作家たちがコメント欄に集まってきて、最初の展示へと発展しました。
――筆者自身はSNSのアカウントを消された経験はありませんが、具体的にどのような写真が削除・警告の対象になるのでしょうか? 酒井さんの場合は?
酒井 僕が消されたのは、女性のお尻が真正面を向いていて、パンツが引っかかり、性器が見えていない写真でしたね。実はプラットフォーム側の規定も、猥褻図画物頒布罪と同じで明確ではないんです。“どこからどこまで”ではなく、人の主観でわいせつと思われるものを出してはいけない、というだけなんですよ。
――主観ということは基準がそれぞれ異なる、と。
酒井 フェイスブックとインスタグラムは厳しくて、ヌードがダメ。特に乳首は絶対だめですね。モザイクをかけると大丈夫です。ツイッターは意外と緩くて、乳首はOKですね。ただ、文字がメインのツールなので、政治的発言や児童ポルノにはうるさいです。しかも、消される写真の傾向は人によっても違うので、「乳首まではいい・悪い」というような判断ではなさそうですね。
冗談ですが、フィリピンでパートのおばちゃんが、画像を一つひとつチェックして消しているという噂もあるほどですよ(笑)。真面目な話では、AIが肌の露出具合を自動判別して、一定の基準をオーバーしていたら消しているとも言われています。ほかには、閲覧者からの指摘もありますね。
ただ、「消された展」の作家たちは削除や警告を嘆いているわけでなく、面白いから展示してしまおうと考えています。「表現の自由が~」と声高に主張したいというわけではないんです。
――テーマとしては、過去にSNSで消されたり、警告された作家しか展示できないのですね?
酒井 お互いに悔しさを共有しよう、ということでそうなっています。お客さんも展示作品の撮影はOKです。第1回目では、展示作品を撮った写真をSNSに投稿したところ消される人が続出したようで、気持ちをわかってもらえたかと。(笑)