動物写真というと個々の生態に焦点を当てたものや、ペットを可愛らしく撮った観賞向けのもの、動物の姿に人間社会を投影することで何かしらの問題提起することを目的としたような写真を多くみかける。
しかし、写真家・酒航太さんが発表した「ZOO ANIMALS」は、それらのどれとも違う。モノクロで撮られた静謐な写真に写る動物は独特の浮遊感が感じられ、朦朧としたイメージはまるで異世界を写し撮ったようにも見える。
上野動物園を中心に日本各地の動物園で撮影された動物たちの写真をまとめた同名の写真集を出版し、大阪のgallery176で11月16日まで写真展を開催中の酒さんに、なぜこのような写真を撮ってきたのか、話を伺った。
■動物の動きの「不思議さ」に惹かれて
ーー「ZOO ANIMALS」は不思議な動物写真だと思います。ゲーリー・ウィノグランドの『THE ANIMALS』とかセバスチャン・サルガドの『Genesis 起源』とか、これまで多くの名だたる写真家たちが動物や動物園をモチーフにした作品を発表していますが、『ZOO ANIMALS』は被写体である動物との距離感捉え方が独特です。どういう感覚で動物と向き合っているんですか?
酒:シンプルに、動物の動きとかビジュアルの不思議さに惹かれているんです。「かわいいな」とか「動きが面白いな」って思うことはあるけれど、別に「これがペンギン、これがフラミンゴ」みたいな、動物の種類とかそれぞれの性質、背景のような部分にはこだわっていません。
ーー品種それぞれの特徴や系統みたいなものへの関心はないと。たしかに、それぞれの生態を記録するような写真、学術資料になるような写真ではありませんね。
酒:図鑑的な写真への興味はほとんどないです。動物そのものの動きを見たいんですよね。だから、撮影に向けて動物についての知識を事前に調べたりすることはありません。撮影の時はとくに何も考えていませんね。
■動物と「認知する前」にシャッターを押す
ーー動物そのものが好きとか、興味があるというわけではないということですか?
酒:動物は好きですよ。でも、感覚としては幼稚園児が動物を見るのと同じというか、不思議さと驚きに反応する。小さい子供って、その動物についての詳しい情報以前にその存在が面白いと思って見るじゃないですか。
ーーなるほど。知識で固まった大人の目線で動物を見るのではなくて、子供のような素直な視点で目の前の驚きを感じ取っているということですね。
酒:前から思っているんですけれど、動物そのものを「それだ」と認知する前に撮りたいんですよ。認知すると、いろいろ考えて構図とかも作っちゃうし。無意識な所でシャッターを押したほうが面白い写真が撮れる。
ーー狙って撮らなかった結果、面白い写真が仕上がるという感覚はわかる気がします。撮影期間はどのくらいですか?
酒:今回の「ZOO ANIMALS」については、2016年から2018年くらいに集中して撮った写真を中心にまとめていますね。意識はしていなかったけれど、それまでも動物の写真はずっと撮っていて、どの作品にも必ず動物の写真が入っていたんですよ。それで、動物に集中してもいいかもしれない思って撮り始めたんです。動物のみを撮るようになったのは7、8年前からですね。
ーーどうして動物をずっと撮っていたんでしょう?
酒:人間じゃないからですね。
ーー「人間じゃないから」とはどういう意味ですか?
酒:同じ人間だと理解しやすいじゃないですか。人間以外の生き物は不思議ですよね。やっぱり、思考が理解しにくいから。わからないのが面白い。そこから入っていますね。そういえば、鳩ばっかり撮っていた時期もありましたよ。ほかにはカモメばかりとか。カモメはけっこう撮りました。ゲームみたいな感じで。
ーーゲーム感覚ですか。
酒:シューティングゲーム感覚。よく、観光船に乗って、飛んでいるカモメにエサを投げて食べさせることってありますよね。写真のモチーフとしてもよくある。
ーーよく見ますよね。観光客がスナック菓子を放り投げると、空中でパクッとキャッチするようなアトラクション。
酒:そう。ポテトチップスとかを投げながら望遠レンズでパチパチ撮ってたんですよ。千葉の湾岸の工場街に行ってよく撮っていました。無機質で巨大な工場をバックに飛んでるカモメの群って戦闘機みたいに見えるんですよ。ビジュアル的にも格好いい。ほんと、シューティングゲームですよね。それにハマっちゃって。
ーークレー射撃とかゲーセンに行くのと同じ感覚ですね。
酒:その頃はデジタルカメラを使っていたから、撮影数とかを気にせずにガンガン撮れる。シャッターを押す快感ってありますよね。連写する時の快感とか。
ーードーパミンが出る感じがします。
酒:作品にして発表はしてはいないけれど、そういうことは10年前からやってました。その後に、動物のポートレートのような写真をカラーで撮っていました。望遠レンズを使って、「動物と目が合う」っていうことをかなり意識して、動物の目に焦点が合うように狙って撮ったような写真だったんですけれど。それを2013年くらいから、自分が運営しているギャラリー35分っていう展示スペースで、月に1度写真を入れ替えて、定期的に発表していたんです。でも、飽きちゃったんですよね。