「美しく幸せな女性は政治的保守」AIが左翼顔・右翼顔を識別! 先入観、固定観念を強化か

 その人の顔を見ればどんな人物かがわかるともいわれているが、それは見た側の解釈の問題でもある。ではAIは人々の顔から何を読み取ることができるのか。最新の研究ではAIが顔だけの情報でその人物の政治的傾向を61%の確率で予測することができたことが報告されている。

「美しく幸せな女性は政治的保守」とAIが判断

 1937年にフランスの小児精神科医であるルイ・コルマンによって創設された“相貌心理学”は「顔によって人間性、性格、パーソナリティーなどを分析する」ことが主張されているが厳密にはサイエンスではないといわれている。

 ではこの問題について、大量の人の顔を機械学習したAIを使ってみるとどんな結果が見えてくるのか。

 デンマークとスウェーデンの研究者が今年3月に「Scientific Reports」で発表した研究では、ディープラーニング技術を使用してAIに顔写真から政治的イデオロギーを予測できるかどうかを確認する実験を行っている。

 研究チームは2017年のデンマーク市議会選挙に立候補したデンマーク人候補者の3233枚の画像の公開データセットを使用し、顔のみが表示されるように周辺を切り取った。候補者名簿に使われる写真だけに極端な感情表現はないものの、かといって免許証写真のような無表情で写る者は少なそうであり、実際に微笑を湛えた顔で写真に写る候補者もいたのだ。つまるところ“世間に向けている顔”をして写真に写っているのである。

 こうして“下ごしらえ”した顔写真をディープラーニング技術を適用して顔の表情を評価し、さらに顔の美しさのデータベースを使用してその人物の「美しさスコア」を判定した。

 そしてこのデータを使ってAIに写真の人物が右翼(保守)か左翼(リベラル)かを予測させたところ、61%の確率で当てることができたのだ。

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上段が男性で下段が女性 画像は「Nature」より

 これはつまり顔の表情の変化は候補者の政治的スタンスと関連していることが判明したことになる。このモデルでは保守派の候補者は微妙な笑顔のせいで「左派の候補者よりも幸せそうに見える」のに対し、左派の候補者はより中立的であると予測された。

 このモデルによれば、軽蔑を表明した女性(中立的な目と唇の片方の端を上げた特徴的な表情)は、よりリベラルな政治に結びついているとAIは判別した。

 研究チームはまた、このモデルが候補者の魅力のレベルとその政策との相関関係を示していることも発見した。美しさのスコアによって魅力的であるとみなされる女性は、保守的な考え方を持つと予測されたが、一方で男性の魅力のレベル(見た目の“マッチョ”さ)と右翼傾向との間に同様の相関関係はなかった。

 リベラル寄りの男性はより中立的で幸福度の低い顔を示しているのだが、そのぶん感情のコントロールが上手であることを示唆していると判断された。これはリベラル男性の“クールな魅力”と言えないこともないだろう。

 魅力と政治的イデオロギーとの関連性は何も目新しいことではないが、今回の研究結果はAIの“固定観念”がいかに強力であることを物語るものであり、研究チームは「ディープラーニングアプローチによってもたらされるプライバシーへの脅威を裏付けた」と述べている。

「美しく幸せな女性は政治的保守だ」という解釈とイメージを結果的にAIがさらに強固なものにしてしまうのである。

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「Daily Mail」の記事より

AIが偏見を強化する可能性

 今回の研究結果はAIモデルの機械学習に使われる美の基準や性別に関する先入観は、固定観念を強化する可能性を浮き彫りにするものとなった。

 候補者の中には非白人の民族性を持つ候補者もいたのだが(188人)、これらの候補者は左翼政党を代表している可能性が2.5倍以上高いと予測され、学習の過程でAIに人種的な偏見が与えられた可能性があるということだ。

 こうした可能性はたとえば就職の採用選考の決定などにおいても特定の結果につながる可能性があることになる。

「顔写真は一般的に潜在的な雇用主に入手可能であり、雇用の決定に関与する人々はイデオロギーに基づいて差別する意思があることを自己宣言している」と研究者らは書いている。

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AIが注目した場所を熱に変換した図 画像は「Nature」より

「したがって一般の人々は自分の写真のどの要素が雇用の機会に影響を与える可能性があるかを認識することで支援される可能性があります」(研究論文より)

 ご存じのように「ChatGPT」のような強力なAIツールが世界を席巻している現在、最先端のテクノロジーが特定の層の認識をどのように強化するかについての懸念がさらに広まっている。

 3月に発表された別の研究では、AI画像生成装置である「DALL-E 2」が97%の確率で白人男性を「CEO」または「取締役」と結びつける画像を生成したことが判明している。AIによる偏った出力結果は人種的な固定観念を永続化させる可能性があると研究者らは警告している。

 今後ますます普及が進むAIが固定観念や偏見を強化する道具にならないよう、我々の側にチェックと修正が求められていることは間違いないのだろう。

参考:「Daily Mail」「Insider」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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