いわくつきの『少年H』、映画版が絶妙のタイミングで地上波放送 ― テレビ朝日は真実を流せるのか?
8月17日夜にテレビ朝日系列で映画『少年H』が放送される。昨年度、テレビ朝日開局55年記念作品として製作されたもので、水谷豊、伊藤蘭らが出演し、興業収入は15億円を超える大ヒット作となった。
原作は、1997年に発売された妹尾河童の小説。こちらも単行本と文庫を合わせた総売発行部数が340万部に達する大ベストセラー作となっている。1930年(昭和5年)に生まれ、戦時中に青春を過ごした作者の実体験が色濃く反映されているという触れ込みだが、根強い批判も存在する。
■『少年H』への厳しい批判とは?
作品では、主人公の少年の視線から、戦争の悲惨さを知覚するさまが描かれている。しかし、戦時中は国民が知り得なかった軍事機密を主人公が知っているなど、多くの事実誤認が指摘されている。
そのため『少年H』は作者の実体験ではなく、戦後に刊行された資料を、現代の視点からつなぎ合わせただけではないかという批判がなされているのだ。
「作品で使われたとされる資料の一つに講談社が発行する『昭和ニ万日の全記録』があります。同シリーズは、写真などビジュアル資料が多く、時代研究などに大変に役立つ。しかし扱う範囲が広いためか間違いもあります。『少年H』にはその間違いがそのまま引き写されていることが指摘されています」(週刊誌記者)
『少年H』の間違いに対する検証本としては、児童文学作家の山中恒らによって『間違いだらけの少年H』『少年Hの盲点』(ともに辺境社)が出版された。そのほか、漫画家の小林よしのりも『ゴーマニズム宣言』内において作品批判を展開している。
一連の批判や指摘に関して、作者の妹尾河童は具体的な反論を行っていない。ただし、文庫版では指摘部分の訂正、変更、削除が行われている。映画化に際しても監督の降旗康男は、原作に対する批判指摘への対応は行ったという。
「くしくも『朝日新聞』が8月5日に従軍慰安婦報道に際して訂正記事を出したばかり。放映は以前から決まっていたのでしょうが、このタイミングで朝日系列のテレビ局が『少年H』を放送するのは皮肉としか言いようがありませんね」(前出・同)
戦争の記録を伝え受け継ぐことは重要である。それが“真実”がなければいけないのは言うまでもない。果たして『少年H』は真実を伝えているのだろうか。
(文=平田宏利)
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