アノ製薬会社の圧力にほかならない?危険ドラッグが野放しだった理由

■危険ドラッグは怪物を生み出す死の天使

 9月19日に新たに14物質を指定薬物に指定する厚生労働省の省令が公布された。4-MeO-PCPや25B-NBF、SDB-006など、聞き慣れない物質ばかりだ。いずれも合成麻薬であり、以前から非合法として規制されていた麻薬と同等の効果を持つ。そしてこれはたぶんなのだが、私が記憶を失い、池袋の事件をはじめとする多くの事故を引き起こしたのは、PCP類似の薬物を使った製品だと考えられる。

 PCP=phencyclidine(フェンサイクリジン)の名前は知らなくても、今の30~40代で「週刊少年ジャンプ」の漫画『ドーベルマン刑事』を知っている人なら、この名前なら知っているはずだ。……エンジェルダスト。服用すると人間とは思えない凶暴性を持ち、痛みをまったく感じないことから警官に銃で撃たれても、平気で襲いかかってくる悪魔の麻薬である。元々は、象などの大型動物を麻酔銃で倒すために使われた動物用の麻酔剤だ。漫画の中では、エンジェルダストを打った大男が、全身に銃弾を受けながら暴れ回った。

 PCPは脳の機能を極端に低下させ、離人症を引き起こす。自分が自分でなくなるのだ。公益財団法人 麻薬・覚せい剤乱用防止センターの薬物データベースによると、PCPの作用は以下の通り。

「PCPは、街で取引されているクスリの中で、その作用を予測することが非常に困難なものの一つです。有頂天な酩酊状態から、陰鬱なせん妄(delirium。幻視など一時的な思考の錯乱で、うわごとを言ったりする)の発作に至るまで、その作用の幅は非常に広くなっています。使用者は、第一段階では、自分の肉体的な変化が生じているとか、自分が自分の体から離脱してゆく感じや『離人現象』(自分のしていることを外部から自分で注視している感じ)を伴って、自分の体がどんどん小さくなってゆくように感じたり、更には無重力状態にあるように感じたり、自分の体から抜け出して行くような感覚を味わったりします」(薬物データベースより引用)

■日本の製薬会社が合成麻薬を販売?

 結局、死者が出るまで危険ドラッグの芽が摘み取られなかったのは、泥縄式の規制方法にある。麻薬の成分を若干化学変化させると法的には別の物質になる。規制されるたびにディーラーは合成ハーブを化学変化させ、別の物質に変えてきたのだ。そのため、規制をしても追いつかないというのが厚生労働省の言い分だ。だが本当にそれが理由なのだろうか?

 2007年2月14日、大塚製薬株式会社はGWファーマシューティカルズと、がん疼痛治療剤である「サティベックス」の米国における開発・販売のライセンス契約を締結した。これにより、大塚製薬はアメリカで独占的にサティベックスを販売できることになった。サティベックスの成分は合成カンナビノイドである。カンナビノイドには副作用のない鎮痛効果があるのだ。

 要するに、サティベックスは医療用として販売されるマリファナ様物質であり、合法ハーブなのだ。そしてGWファーマシューティカルズこそが合成カンナビノイドの量産に成功した製薬メーカーである。

 大麻を巡っては、アメリカで医療用として一部認可されるなど規制は緩和される方向に動いている。その大きな要因がサティベックスであり、それに伴う巨大な利権だ。アメリカでは認可待ちだが、イギリスでは2010年から販売が始まっており、欧州での売上は5,000万ポンド=約85億円と見積もられている。

 もしサティベックスを日本で販売することになったら、合成カンナビノイドを合法とする法的な抜け道を用意しておく必要がある。それが2013年になるまで合成カンナビノイドを泥縄式に放置した理由ではないのだろうか? しかし合法ハーブ市場が無視できなくなるほど大きくなり、暴力団らの資金源となったことを受けて包括指定に踏み切ったのではないか?

 危険ドラッグにしても、すべてを包括指定しないのは、製薬会社との関係があるからだと考えるのは穿ちすぎだろうか。一方で麻薬として排除しながら一方では薬として利用する道を残さなければならない。その苦肉の策の間を突いて、危険ドラッグは誕生したのである。

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文=川口友万/サイエンスライター/著書『大人の怪しい実験室』

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