高校生「カンニング自殺」裁判の争点に疑問 ― 精神科医の意見書は無視!?

■遺族が提示した根拠

 そこで、遺族は「故意による死亡」ではない根拠として、心理学的剖検をしている精神科医による意見書を提出した。心理学的剖検というのは、自殺で亡くなった人の家族や友人らから情報を集めることで、生前の様子を明らかにするという調査手法であり、政府が推進すべき自殺対策の指針を策定する「自殺対策大綱」でもうたわれている手法だ。

 意見書を提出したのは、心理学的剖検の調査に取り組んでいる精神科医で、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所に勤務し、同研究所の自殺予防総合対策センターの副センター長。

 この意見書では「少なくとも自殺する当日の朝までは自殺の意志がなく、計画性を欠いた衝動的なもの」「『カンニングの発覚』という危機的事態に際して選択した解決策はあまりにも『割に合わない』ものであり、『これだけの苦痛があれば、自殺したくなる気持ちも理解できる』という動機の了解可能性もない」「本人が体験している主観的苦痛や年齢的な未熟さや個人の特性とともに、衝動性の著しい亢進など、異常な精神状態などの要因を考慮せざるを得ない」としている。

 また地裁判決で、自殺直前に冷や汗、顔面蒼白、挙動不審、逃走などの行動変化が認められなかったために「正常な判断能力を兼ね備えた自殺」と結論付けたことに関して、意見書ではそうした見方を否定していた。むしろ、自殺直前には「解離状態」になっている可能性を指摘しているのだ。

 ちなみに、同センターの施行令では「中学生と高校生とでは行為の結果の予測に違いがある」として、死亡見舞金の支給条件を変えているが、意見書によると「両者のあいだにおける自殺の容態や精神状態の違いを明らかにした報告はない」として、中学生と高校生のあいだで給付条件を変える根拠はないとしている。また、これまで同センターでは、高校生による自殺であっても、死亡見舞金を給付しているケースもあるが、それも明確な基準はないようだ。

 しかし、判決では「自殺者の大半が、自己の行為と結果を認識・認容する能力がないといった経験則が成り立つものとはいい難い」「生徒の具体的な精神状態が、転落行為とその結果を認識・任用する能力を失うほどに病的な状態であったと推測することができるとは考えられない」「(意見書は)一般論と可能性に基づく推論にすぎず、かつ、具体的な精神疾患の存在を指摘するものではない」として、意見書に耳を貸さなかったのだ。そこには裁判長の「自殺観」が見てとれるのではないだろうか? 判決を出した控訴審の菅野博之裁判長の話をまとめると「人は冷静に、どんな結果になるかわかっていて、自己決定として自殺する」と考えているかのようだ。これは、「自殺は追い詰められた末の死である」という自殺対策基本法の趣旨にも反しているのではないだろうか?

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