【イスラム国事件】外交官が語る国内でテロが起きる可能性と危険な場所とは?
「イスラム教関連のテロといっても、実際はさまざまなものがあります。『イスラム国』に代表されるスンニー派過激主義集団のテロに限定せず、広くイスラム教関連のテロ行為ということであれば、日本でもかつて発生しています。1991年7月11日、ムスリムの間ではイスラムを冒涜する内容であると捉えられているサルマン・ラシュディの小説『悪魔の詩篇』を翻訳した五十嵐一・筑波大学教授が、大学構内で喉を切られて殺害される事件が発生しました。外交上の問題にもなりかねないので詳しい情報は公表されていませんが、イランの意向を受けたテロリストの活動とみて間違いないでしょう。ただし、現在欧米やオーストラリアで発生した事件と、五十嵐教授の事件はかなり性質が異なります。五十嵐教授の場合、イランという特定の政府が裏で糸を引き、しっかりした指揮命令系統の下で実施されたと思われます。1994年にアルゼンチンで起きたユダヤ教施設爆破なども同じ構造です」
「かたや、最近欧米諸国やオーストラリアで発生した事件は、現地のイスラム教徒がイスラム国やアル・カーイダの思想、欧米と対決するその姿勢に共鳴して行動に出たものと言えるでしょう。彼らの行動は、かなりの部分が独自の計画に基づいており、本体たる組織からの指揮はあまりなかったように思われます。またその背景には、地元社会で移民たちが置かれた社会的・経済的状況が影響しています。その意味で、日本は、背景がまったく異なると言ってよいでしょう」
かつて多くのイスラム諸国を植民地として支配していたヨーロッパ諸国や、海外からの移民に寛容なアメリカやオーストラリアとは異なり、日本のイスラム教徒は、最大でも全国で7万人ほどと言われている。また、日本政府の外国人受け入れ政策は、世界的にもかなり厳しい部類に属し、身元の不確かな人間が定住することは難しい。
「五十嵐教授殺害事件当時、日本とイランとは相互査証(ビザ)免除協定を結んでおり、一時は4万人ともいわれるイラン人が日本に滞在していました。その多くは不法滞在で、麻薬販売や変造テレホンカードの販売などの犯罪に手を染める者も大勢いました。こうした状況に面し、日本政府が1992年に査証免除協定を終結し、不法滞在者の取締を厳しくしたことから、現在日本に滞在するイラン人は4,000人を切っているといわれます。他の国籍のイスラム教徒も、おおむね穏健で、周囲の日本人と仲良く暮らしている人がほとんどです」
しかし、彼は最後にこう言って油断を戒めた。
「軍事用語に、ソフトターゲットというものがあります。軍の組織や政府機関など、テロリストが本当に狙いたい場所では通常警戒が厳しく、テロの実行も容易ではありません。その場合、ホテルや学校など、比較的警備のゆるやかな場所を代わりに標的とすることがあり、これらの標的がソフトターゲットと呼ばれるのです。今回の一連の事件で、欧米がイスラム過激派に対する警戒を一段と強化することが予想されますが、日本が何もしないままであれば、比較的狙いやすい目標とみなされる可能性も否定できません」
現在勢力を増しているイスラム過激組織は、決して「イスラム国」だけではない。ナイジェリア北部では「ボコ・ハラム」が勢力を維持しており、イエメンではシーア派の一派である「ホーシ派」が事実上支配権を握り、リビアでもイスラム武装組織と世俗主義勢力の戦闘が続いている。様々なイスラム原理主義勢力が、各地で勢いを増している状況だ。今後のテロ対策についても、欧米諸国に遅れをとらないよう、緊密に連携をとる必要があるようだ。
(櫻井慎太郎)
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