超天才サルヴァドール・ダリの意外と知らない10の秘密・後編!

■【7】ダリはラリって絵を描いたのか?

 ダリのさまざまな絵をみるとき、あなたは、彼がなんらかの強い向精神薬物をキメていたのではないかと疑うかもしれない。そう思うのも当然で、彼の作品はどれもこれも、完璧に“イカれている”のだから。しかし、ダリは、「私はドラッグなど使わない。私そのものがドラッグなのだ!!」との言葉を残している。なんと痛快なマニフェストであることか。

 彼はそのまるで異次元を思わせるインスピレーションをどこから得ているのだろうと、不思議になるが、ダリは自分自身をよりクリエイティヴに啓発するための、いくつかの〈技〉を持っていた。その1つが、ブリキの板とスプーンだった。

 ダリは板の上に椅子をだすと、そこに座って、スプーンを手にしたままウトウトとうたた寝をむさぼることにしていた。彼が半分眠ってしまうと、スプーンが手から滑ってブリキの上に落ち、けたたましい音をたてる。そこでハッとして目覚めたダリは、すぐさま、夢の中で見た超現実的なイメージを手元の画帖に描きとめるのだ。

 別のやり方もあり、それは、“ほとんど気絶寸前になるまでの逆立ち”だったため、こちらはお勧めできない。

 また複数ある中でも最も知られている手法は、「パラノイアック─クリティカル・メソッド(Paranoiac-Critical Method)」と呼ばれる、まさにダリならではの代物だった。ちょっと細かいことを言うと、日本では以前、これが「偏執狂的=批判的方法」と訳されていて、なかなかに趣きのある言葉だったのだが、現在では、「パラノイア的=批判的解釈」にすげ替えられてしまい、いささか寂しい気がする。元はと言えば、精神医学の世界でターム(用語)が変ったせいなのだが…。

 さて、話を戻すと、上のダリのやり口の妙は、一見まるで無関係な対象AとBの間に〈不合理な関係〉を積極的に見出すことにあった。これにより、自らを妄想状態に導き、潜在意識の風景を描写しようとした…とされている。

 具体的には、こんなことだろうか。

 ある日、ダリは同じスペイン出身の大先輩ピカソから、1枚の絵葉書をもらった。絵面を見れば、アフリカの原住民の方々が、草葺の小屋の前に座ってまったりとしている。

「ふうん、ピカソったら、ほんとにアフリカ大好きなんだなあ」

 そう思って画像をみつめるうちに、ダリはある違和感に気がついた。
 
「あら、なんかちょっと変かも。うーん、ちょっとヨコ向きの写真を、タテにしてみよう。…おおお! これはピカソの顔じゃないか!?」

 もちろん、ここにはピカソ側の仕掛けは一切ない。勝手にダリがそう感じとっただけ。だが、アフリカのネイティヴの家と、ピカソの顔という、まるで無関係なものを結びつけ、彼の脳裏を駆け巡ったのは本当らしい。

 こうして生まれたのが『パラノイアックな風景』というダブル・イメージの作品だった。やがてこの手の絵はダリの十八番となり、あのあまりにも有名なJ-フランソワ・ミレーの『晩鐘』さえも、ダリの毒牙(?)にかかってしまうと、なんともうら寂しい、奇妙な廃墟に変貌されられてしまった。

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