元少年A手記には「3つの重大な疑問」について書かれていない ― 果たして彼は本物なのか?
1997年の神戸連続児童殺傷事件での加害少年だった「元少年A」、つまり酒鬼薔薇聖斗と名乗った男性(32)が手記『絶歌』(太田出版)を出版した。すでに出版それ自体に批判の声も出ている。
もちろん、事前に伝えなかったことによる遺族の不快感はわからなくはない。ただ、元少年Aがそうでもして書かざるを得なかったものとはなんだろうと思うと同時に、事件に関するさまざまな「ナゼ」を解き明かした内容であるならば、出版する意義はある程度あるのではないかと思い、読んでみた。
■なぜ「透明な存在」という言葉を使ったのか?
・当時の犯行声明
「やろうと思えば誰にも気づかれずにひっそりと殺人を楽しむ事もできたのである。ボクがわざわざ世間の注目を集めたのは、今までも、そしてこれからも透明な存在であり続けるボクを、せめてあなた達の空想の中でだけでも実在の人間として認めて頂きたいのである。それと同時に、透明な存在であるボクを造り出した義務教育と、義務教育を生み出した社会への復讐も忘れてはいない」
この言葉は評論家や研究者の目にとまり、さまざまな批評がなされた。彼自身もそのことを知っているはずだ。当時の若者たちは「透明な存在」というフレーズにシンパシーを感じるのではないか、とも言われたりした。
もし、それらの言説に違和感があったらこの本の中で反論するのではないか。私はそう思っていた。
もちろん、存在の希薄さについては。
「良くも悪くも、僕は他人より目立つ部分はひとつもなかった」(P6より引用)
と最初の方に書かれている。しかし、なぜか「透明な存在」というフレーズについて著書では触れられていない。「酒鬼薔薇聖斗」の名前の由来は書いている(P94)一方で、「透明な存在」について書かない理由がどこにあるのか、まったくわからない。
上記の犯行声明文は、テレビ出演した評論家が「オニバラ」と間違えて読んでいたことに対する憤慨も含めて、神戸新聞に送ったものだ。当時の彼にとってはそれだけ重大な名前だったように思えるのだが、このことについても書かれいていない。
「さあ、ゲームの始まりです」との出だしで世間を震撼させた最初の犯行声明については、アメリカの連続殺人鬼ゾディアックの声明文を真似たと言っている。ただ、その署名には「SHOOLL KILLER」とあり、これは「SCHOOL KILLER」の間違いだと思われるが、そのことも触れられていない。間違いだとすれば、自意識に触れるからか、あえて書かなかったのかもしれない。
■なぜ殺害したのか?
そして、この事件の最大の謎がある。なぜ、小6男児を殺害し、首を切断したのか、だ。
彼は最初は猫を殺している。愛してくれた祖母、愛犬だったサスケが死んだそのその喪失感と死への恐怖心は相当のものだった。しかし、猫を殺したとき、「死をこの手で作り出せた。さんざんに自分を振りまわし、弄んだ死を、完璧にコントロールした」(P64)と述べている。死は不安材料だったが、殺害することでその不安を制御したということなのだろう。猫殺害過程での心理描写も詳細に述べている。
一方で、小6男児を殺害したことや首を切断したことについては、あっさりと書かれているだけだ。小6男児を殴った事件があり、それについては詳しく書いているのだが、なぜか殺害場面はほとんどない。これは遺族への配慮なのか。それとも記憶が曖昧なのか。
殴る行為と殺害行為にはあまりにも乖離がある。その意味では、本来、殺害し、首を切断する心理描写を提示することこそ、加害者心理を知り、更正プログラムに役立つものになるだろうと思う。彼にとって、あまりにも自然なことだから触れなかったのだろうか?
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