元少年A手記には「3つの重大な疑問」について書かれていない ― 果たして彼は本物なのか?
■どのように殺害したのか?
一部の見方にもあるように、本当に彼ひとりで殺人できたのか? という疑問も根強くあり、冤罪説も当初からあった。切断した頭部を校門に置いたというが、その場所が目撃証言によって違うことも指摘されているのだ。だからこそ、殺害状況に関する詳細な記述が望まれた。しかし、こうもあっさり書かれていると、再び、冤罪説が再燃する懸念さえ出てくる。
ここまで当時の詳細が書かれていないと、本当に「元少年A」は「酒鬼薔薇聖斗」なのか? と疑いたくなる。
事件は、1995年の阪神大震災や地下鉄サリン事件の2年後に起きているが、こうした時代背景による影響があったのかも注目すべき点だ。当時、私は、大きな社会的なトラウマが表面化してしまったのではないかと思ったほどだ。このことについては、
「僕はこのふたつの大惨事をリアルタイムで見てきた。体内に巨大な虚無がインストールされ、のちの僕の思考スタイルにはかりしれない影響を与えた」(P102より引用)
と書いてあった。しかし、その割にはほとんど分析がされていない。どんな虚無がどのようにインストールされたのかを知りたいところだが、詳細はない。この「ふたつの大惨事」が影響を与えたのなら、2011年の東日本大震災には関心があったのだろうか。やはり一言も触れられていない。全体としては文章は凝ったものなのだが、きちんと分析できているのかが疑わしい。
最後には被害者遺族への謝罪文が掲載されている。この謝罪文を単独で読むと、彼自身が長年苦しみ、葛藤し、それでもなお、生きる方向を選んでいくことがわかる。そして、生への執着を見せ、自分が奪ったものは生そのものだということを実感する。この思考や体験のプロセスは非常にわかりやすく、共感できる部分もなくはない。ある専門家も、この謝罪文は評価できるとも言っていた。しかし、この謝罪文と、それまでの文章がやや乖離しているようにも思えてならない。
彼は最後にこうも書いている。
「せめて、この本の中に、皆様の『なぜ』にお答えできている部分が、たとえば、一行でもあってくれればと願ってやみません」(P294より引用)
たしかに「一行」くらいはあったが、数々の「なぜ」が増えてしまった。ぜひ、この「なぜ」の答えをいつか聞かせてほしい。
(文=渋井哲也/ジャーナリスト)
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