手首ラーメンに女装ヒットマン…凄惨すぎるヤクザたちの争い3選!! ノンフィクションライターが選出
【CASE 2/ブルースカイ事件】
歴史を顧みるなら、今では暴力団と呼ばれている任侠団体が、全面的に悪だったかと言えば、そんなことはない。戦後、日本経済が麻痺している時期に、一般市民は闇市で食料や日用品などを手に入れていた。闇市を仕切っていたのは任侠団体だった。
今では芸能人が暴力団と繋がっていると知れると大問題になるが、かつては任侠団体が芸能界を仕切っていた。
昭和33年に神戸芸能社と名を変えた山口組芸能部は、美空ひばり、田端義夫、山城新伍などの興業の実権を握っていた。その他、橋幸夫、坂本九、三波春夫、マヒナスターズ、舟木一夫など当時のトップスターのほとんどを手がけている。
昭和34年8月31日、横浜・山下町のナイトクラブ「ブルースカイ」で、美空ひばりの弟が歌手デビューするということで、その後援会の発会式が行われた。当時、ひばりプロの会長であったのは、山口組三代目組長である田岡一雄である。
発会式が終わり、そのまま「ブルースカイ」で、ひばりと田岡ら一行が飲んでいると、一般客も入ってきた。
美空ひばりの姿を見つけ、「一曲歌わせろ」とマネージャーに要求する客がいた。鶴政組(現・稲川会)の幹部、佐藤義雄だった。マネージャーからそれを聞いた田岡は、「おしのびで来てるんだから、勘弁してくれ」と断った。それを聞いた佐藤は収まらず、「ぐずぐず言ってないで、ひばりに歌わせろ!」とマネージャーに食ってかかる。
田岡と若い衆6人は、「表に出んかい!」と言って、佐藤を駐車場に連れ出した。拳銃を突きつけたところで、佐藤の胸にあるバッジに気づいた。
「なんや、稲川組の若い衆や」
稲川組の創始者である稲川角二を配下においていた、博徒の鶴岡政次郎と田岡は兄弟の盃を交わしていた。
田岡は手を引いたのだが、佐藤のほうが収まらず、横浜中で田岡を捜し回り、横浜市磯子区の高台の高級住宅街にある、美空ひばりの家にも押しかけた。
田岡は神戸に帰っていたが、佐藤の行状を聞きはらわたが煮えくりかえった。報復するために150人近い組員を送り込んだ。情報を事前に察知した神奈川県警が、非常警戒態勢を取り、職務質問や検問で凶器を発見したので、事件は未然に防がれた。
【CASE 3/女装ヒットマン】
任侠の世界と言えば、なんと言っても男気である。ダンディに見えるように、ファッションにも気を遣う。だが、女装して抗争相手を殺した、ヒットマンがいた。昭和59年から平成元年まで続いた、山一抗争と呼ばれる山口組と一和会の争いでのことだ。
昭和60年、清山礼吉(当時、27歳)は、鳥取県倉吉市に本部を置く、山口組傘下の輝道会の最末端の組員であった。何とか男を上げようと、倉吉にいる一和会幹事長補佐の赤坂進を狙っていた。清山は輝道会会長の杉本輝幸に、ピストルの入手法を尋ねたが、「使った者でさえいざというときには目標を外すのに、使ったことのない者には無理だ」と断られてしまう。
なすすべもなく、日々を過ごしている頃、倉吉駅前のスナックでいたずらに唇にルージュをさしてみると、「似合うわ」とママから褒められて女装に目覚める。ソープランドに努める知り合いの女性から、服や化粧道具、イヤリング、ネックレスを身につけて、女装にはまっていく。
そして、狙っていた赤坂進が、そのスナックにたまに来るということを、清山は知る。清山は女装してスナックに毎日行くようになった。客にはオカマとしておもしろがられ、無給のホステスとして働いたのだ。
赤坂のほうは、末端組員の清山の顔など知るよしもない。赤坂もオカマホステスを自分の席に呼ぶようになり、しだいに懇意になり、清山は赤坂に女性を紹介するまでになった。
10月26日、赤坂の好みの女性が店に来るからと、清山は赤坂に電話してスナックに呼びだした。そして、同じ輝道会でピストルの扱いに慣れた、山本尊章(当時、36歳)を呼んだ。山本はカウンターでコークハイを飲んでいた。
赤坂は2人の組員を伴って店に来た。女性が来るというのはウソなので、いつまで経っても来ない。清山はバカ話をしながら、3時間も座を持たせたが、とうとう赤坂は帰ると言って立ち上がった。
その時に、山本がカウンターから離れ、ピストルを発射。赤坂とひとりの組員に打ち込んだ。車の運転のため、先に外に出ていた組員が銃声に気づき戻ってきて、山本を取り押さえた。後から清山は包丁で、その組員を刺した。赤坂らは、虫の息となった。
「警察を呼ぶから、あんたたち待っててよ」
ママがそう言うと、清山と山本はパトカーが来るのを待って逮捕された。赤坂とひとりの組員が死亡。刺された組員は命は取り止めたが、重傷を負った。
公判では、清山は自分が主犯であると主張した。だが、山本の発砲でふたりが死亡、清山は重傷を負わせただけという事実関係から、清山に懲役15年、山本には無期懲役の判決が下った。
清山は「多大な戦勲を上げた」として現在、輝道会の会長となっている。
(文=深笛義也)
■深笛義也(ふかぶえ・よしなり)
1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。18歳から29歳まで革命運動に明け暮れ、30代でライターになる。書籍には『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』(すべて鹿砦社)がある。ほか、著書はコチラ。
【参考文献】
■『明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典』 東京法経学院出版
■ 『首領』(ドン)著:大下英治/大和書房
■『組織暴力の実態』毎日新聞社
■『暴力許すまじ』広島県警
■『山口組ドキュメント 五代目山口組』著:溝口敦/講談社
■『撃滅 山口組vs一和会』著:溝口敦/講談社
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