日本奇習紀行

奇習! 隠れ浜で結合する男女の淫靡な風習=新潟県

「暗いものだからよくわからなかったんだけど、ふと目を凝らしたら、海っぺりの切り立った崖の前に、小さな小屋みたいなのがあるわけ。それで、こんなところになんで小屋なんか建ってんだろう、だなんて不思議に思ってたら、漁師が中を見てみろって身振り手振りしてくるんだよ。

 それでおそるおそる小窓の中を覗いてみたら、裸の男と女が無言で交わってるんですよ。なにせね、月の明かりくらいしかないからあれなんだけども、女の白い肌がときどき浮かびあがってきて、それがまた、なんとも助平な景色ときたもんだ(苦笑)」

 暗闇の中で激しく求め合う男と女の姿を見た田中さんが、人知れず沸き起こる劣情に興奮していると、その漁師はそこで行われている行為が、この港町に古くから伝わる風習なのだと明かしてくれたという。

「…なんでもね、満月と新月の夜の月2回、見知らぬ男と女が交われるっていう習慣があるんだっていう話でね。宵の口になるとそうしたいっていう女が港の決まった場所に立って、それを見ると、誰からというでもなしに、船を持っている人間が、その小屋まで連れていってくれるっていう。

 相手の男もね、やっぱり別の場所に立って待つっていうのが決まりになっていて、同じように運んでくれる。けど、港に立ったときから、小屋について交わって、また港に戻ってくるまで、頭巾を被ったままじゃないといけない。もちろん、声も出しちゃいけない。だから実際に交わっている相手ですら、それが町の誰なのかってわかりゃしないんだ、っていう話でしたよ」

 そんな驚くべき風習があることを知った田中さんはその日こそ、そのまま引き上げたものの、その翌日、漁師から教えてもらった通りに港に立ってみたという。すると、ものの15分もしないうちに、話の通りに船がやってきて、前日訪れた“隠れ浜”の小屋へと連れて行ってくれたそうだ。しかし、血気盛んにその中にいた女性と交わりはじめた時、田中さんはある事実に気づいてしまう。

「いやね、これがまた心底、馬鹿馬鹿しい話なんだけれども、私が小屋で交わったのは、自分が厄介になっている、さっき話した小料理屋の後家さんだったんですよ(苦笑)。笑っちゃうでしょう? いくらなんでも何度か抱いた女ならば、顔が見えなくて声を出さなくったってわかるものですよ…。うん、そうですね。相手も多分すぐに気づいたと思いますよ」

 田中さんはそれがごくごく近しい相手であることに気づきつつも、そのまま交わり、港へと戻っていった。しかし、酒を飲んでくると家を出た手前、そのまま戻るわけにはいかない。また、小屋で交わった女性が後家さんであるという確証を得るのが怖くなり、なんとも言えない複雑な想いを抱えたままで、浜辺にひとり座って朝まで飲んでから、引き上げていったそうだ。

「明け方ね、内心なんだかびくびくしながら家に戻ったんだけども、そしたらね、その後家さん、何食わぬ顔で熟睡してるのよ(苦笑)。起きたら起きたで、『朝ごはん、お茶漬けくらい食べるでしょう?』なんて言ってね。それがどこかおかしくてたまらないなって思った反面、外であんなことをしてるのをおくびにも出さない女の人っていう生き物は、本当に怖いものだと思いましたねぇ…」

 その後、日常生活に戻ったものの、あの夜の出来事が忘れられずに、どこかしっくりとこなくなってしまったという田中さんは、その約1カ月後、現在住む郷里の山里へと引き上げていったという。そこからはや60年以上の時が流れた今、彼らが交わった“隠れ浜”の小屋がどうなっているかは、無論、知る由もない。
(文=戸叶和男)

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