――全国各地を飛び回っての撮影は、体力的にも金銭的にも大変なことです。それらを乗り越えてでも撮影するモチベーションはいったいどこから湧いてきたのでしょうか?
西村 郷土芸能の魅力を伝えることが、現在の日本にとって大事なことだと思うんです。芸能は日本人として生きた証であり、世界に誇れる文化だと考えています。郷土芸能が国内外にさらに認知され、日本文化を見直すきっかけになってほしいと願っています。
――「日本の文化」というと、能や歌舞伎、文楽などの芸能がイメージされますが、ここに掲載されている芸能は、それらとはまた違った魅力を秘めていますね。
西村 これらの芸能はより人々の生活に近いです。「隣のおじさんがやっていた踊り」と集落の人々が知っているように、彼らの生活の一部として受け継がれてきた文化なんです。また、能が田楽から生まれたように、伝統芸能のルーツは民俗芸能にあるんです。
――写真集の中で、特にこれは見てほしいというものはありますか?
西村 どの芸能にも思い入れがありますが、個人的にはその年の豊作を祈る「予祝芸能」が好きです。静岡県にある「藤守の田遊び」は、大井八幡宮で行われ、氏子の未婚男子である、小学生から高校生くらいまでの子供達によって踊られるのですが、田んぼの耕作から稲を刈り上げるまでを模擬的に演じて、豊作を祈願します。子供達が生命の強さや大切さを一生懸命に体を動かして覚える姿がとても健全に見えました。また、秋田の「本海獅子舞番楽(ほんかいししまいばんがく)」は、かつて山伏修験者達が村人たちに教えた踊りが伝わっています。彼らが使う道具類には200年以上も前から大切に受け継がれているものもあり、それらが舞の迫力をさらに引き立てていて、すごく素敵です。