「置いて行かないで…」エベレストに残る200体以上の遺体の意外な役目とは?

 それゆえに登山中に遭難し、遺体となっても登山者たちを回収することはほとんどない。標高8000メートル級になると登山ルートのあちらこちらで遺体が放置されているのを見なくてはいけないという。カラフルな登山着を着たままの遺体が大量にあるこの地を虹の谷とも呼ばれている。名前とのギャップが実に恐ろしい。しかしこれらの遺体は次なる登山家にとって重要な役目を果たしている。


■登山ルートの目印となる遺体
 

「置いて行かないで…」エベレストに残る200体以上の遺体の意外な役目とは?の画像2画像は、「Atchuup!」より。

 インド人登山家のツワング・パルジャーの遺体は虹の谷のなかでも一番有名なものになっている。1996年、下山中にブリザードに巻き込まれ低体温症で死亡したパルジャーの遺体はその靴の色から「グリーンブーツ」と呼ばれており、北東側ルートにある「グリーンブーツケーブ」と呼ばれる岩の張り出しの目印となっているのだ。

 またその他にも約200の遺体に名前が付けられ、エベレストの登頂へのランドマークとなっている。

 ある時、ふたりの登山家が瀕死の状態でひとり取り残された女性登山家を発見したが、なすすべもなく「置いて行かないで」と助けを求める声をあとに前進せざるを得なかった。もし助けようとしたら3人とも命を失うことになる可能性が非常に高いかだ。写真はまさにその彼女のものだ。罪の意識を感じた彼らは数年かけて登山費用を作り彼女の遺体を探し、適切な形で埋葬したという。

■残される遺体たち

 ドイツ人女性登山家ハネロア・シュマッツの遺体。1979年に低体温症と疲労で亡くなったとされており、登山バックを背に束の間の休憩を取るために寄りかかったものの、一瞬の眠気に襲われそのまま帰らぬ人となったと考えられている。このようにエベレストでは休憩中に眠りに落ちて亡くなるケースは多いという。彼女はエベレストで亡くなった初の女性登山家となってしまった。

 イギリス人登山家のデイヴィッド・シャープ。2006年にグリーンブーツの遺体近くで休んでいる間に凍傷が悪化、登山を続けることが困難になってしまった。彼が死ぬまで30人近くの登山家がその側を通り過ぎ、声をかける者もいたがいずれにせよ為す術はなかった。

 この遺体は2012年に無事登頂に成功したスリヤ・シャー・クロルファインのものである。酸欠と疲労で死亡したとされているが、その原因は頂上にて自分の成し遂げた快挙を25分間祝福し、酸素を使いすぎたものによる。遺体は頂上から300メートル降りたところで見つかり、自国の国旗を掲げたまま亡くなっていた。

 命がけで頂きを目指す登山家たちは何を見て、何を求めているのであろうか。その偉業の影にはこうして命を落とした多数の人たちがいることを考えるとはかなくもある。

(アナザー茂


※参考:「Atchuup!」、ほか

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