『BRIGHT MOMENTS』(マルクマ本店)
■私たちは「青」のなかで生きている
『BRIGHT MOMENTS』に特徴的なのは「青」のイメージで統一されていることだ。
「ここ数年『青』という色に関心があった。青を写真で表現することを考えた時、ピカソやセザンヌのように絵画の世界で青の表現を突き詰めて考えている人たちがいた。イブ ・クラインは青の作品をたくさん作っているし、マーク・ロスコーもそう。あとは映画。デレク・ジャーマンの『Blue』やアンドレイ・タルコフスキー、ベルナルド・ベルトリッチの青の表現。このあたりを写真に落とし込みたいと思った。青い写真を見たときには遠い感じがする。冷たい感じもある。幻想的でもある。青、黄、赤、それぞれの色が持つ世界観、色としての役割は違っていて、人に与える印象はそれぞれの色で変わってくる。それで、青についてずっと考えた。落ち着きであったり静寂であったり、遠さであったり」
今年1月に開かれた「青について」というタイトルの写真展のさいのトークショウで、熊谷は「青のなかに我々は生きている」と語っている。空も水も地球も青で表現される。そのなかで私たちは生きているし、これまでも生きてきた。シュタイナーが言う、魂の内へと向かう輝きを表す青を肌色の肉体のなかに孕みながら。
そう考えると、青という色は時代や場所に関係なく、世界と人間とを繋げる役割を持った色であり、そこに観る者を惹きつける秘密があるのかもしれない。
『BRIGHT MOMENTS』(マルクマ本店)
■どんな時代も輝く瞬間の連続だった
タイトルの『BRIGHT MOMENTS』を日本語に訳すと「輝く瞬間」になる。なぜ、熊谷はこの写真集を「輝く瞬間」と名付けたのだろう?
「『輝く瞬間』はある意味、写真的な言葉。輝く瞬間は太古からずっとあったわけだし、その繋がりでしかない。写真は時間を止める。止めるんだけれど、それは写真の上で止まっているだけであって、輝く瞬間そのものは連続している。戦争ばかりやっているような 暗い時代もあるけれど、そのなかでも人類は続いてきた。今ここに俺たちがいるっていうことは、どんな悪い時代でも輝く時があったからこそ。『輝く時』をキーワードにしたときに、言葉の限定的な意味よりも、その後ろにある大きな時間の流れを作品の中に入れたいと思った」