中国、絶対に盗聴不可能な「量子スパイ衛星」打ち上げへ! 我々の通信セキュリティ事情を一変させる脅威となる可能性

■量子暗号通信のメカニズム

 今回、中国が打ち上げる量子科学実験衛星だが、簡単にいえば「遠く離れた場所にある2つの量子において、片方の性質が変わると、もう一方も瞬時に同じ状態になる」という現象、すなわち「量子テレポーテーション」を利用して通信を行おうという試みである。

 そして量子には、「位置と運動量を同時に確定できない」「観測によって状態が変わる」という2つの特徴があるが、量子通信では暗号化のために後者の性質を利用する。これは、衛星から送信された量子(光子として発射される)が第三者によって盗聴(観測)された場合、光子自体の性質が変わってしまうという“痕跡”が残ることを意味する。つまり、盗聴を完全に検知することができるのだ。しかも、量子暗号技術では現行の公開鍵暗号方式とは違い、暗号化も復号も1つの鍵で行われる。情報の受信側と送信側は『鍵』を共有することで、盗聴を察知し、機密情報を確実に受け渡すことができるというわけだ。


■暗号技術が科学を飛躍させた

 中国がこのシステムを手にすれば、軍事や政治など幅広い分野で用いられることになるのは明白だ。現在、アメリカは世界中の通信を傍受し、あらゆる暗号通信を解読しているといわれている。しかし、この技術が完成すればアメリカですら傍受は難しくなるだろう。中国を中心とした世界的な量子暗号通信ネットワークが作られる可能性もある。

 暗号技術は大昔から用いられており、その解読方法の探索は常に重要な課題だった。暗号の解読が戦局の変化に大きく貢献することも珍しくない。有名な例は第二次世界大戦でナチスドイツが利用した暗号機「エニグマ」であろう。解読不可能といわれたエニグマだが、イギリスの天才数学者アラン・チューリングらが解読に成功。これによりナチスドイツ優勢だった戦況は一変し、連合国側の勝利に大きく貢献したとされる。

 なお、この際に大きく発展したのがコンピュータ科学である。アラン・チューリングらは、原始的なコンピュータを用いて暗号を解読していたのだ。現在のコンピュータは、この時のたゆまぬ努力によって作られたといっても過言ではない。暗号技術とそれを解読しようとする試みが、世界情勢と科学技術の発展にどれほどの影響を与えてきたか、おわかりいただけるだろう。


 アメリカやヨーロッパ各国、そして我が日本も量子通信の研究を官民挙げて行っている。今までの全ての暗号技術がそうであったように、いずれは量子暗号通信をも傍受する方法が編み出されるのだろう。中国の新しい衛星は、暗号解読戦争の新たな1ページなのだ。東シナ海や南シナ海の問題とも直結する、中国における情報技術の“急速な発展”に注目していきたい。
(吉井いつき)


参考:「The Daily Mail」、「nature」、ほか

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