森林の精霊「グリーンマン」と会った男 ― 葉っぱに覆われた妖精が現れたその時…
“私は田舎暮らしだったこともあるが、小さい頃から森の中で遊ぶことが多かった。かくれんぼなどしてね。
成長するにしたがって、あまり森で遊ぶこともなくなったが、たまにひとりで森には行っていた。
するとある日の夜、自分の家の中から森を眺めていたら、森から呼ばれているような感覚にとらわれたんだ。
不思議に思って森へ入ってみたら、子どもの頃よりも鮮明に樹々が話しかけてくる。
「久しぶりだな」「よく来たな」というような樹々もいれば「お前は誰だ」「大丈夫か?」など、歓迎ともとれない声まで聞こえてくる。
しかし、私は不思議と恐ろしいとも思わなかった。子どもの頃に話していた樹々だとすぐにわかったからね。
そうして色んな樹々に話しかけられながら森の奥まで進んで行き、少々疲れて休もうかと立ち止まってみると、ある樹の枝が「おいでおいで」と呼んでいたんだ。
その樹をよく見てみると、そこには家のドアにかけられているような葉っぱや枝に覆われた人間のようなものがいるんだ。
顔があり手があり胴体もあるんだが、それは間違いなく樹なんだ。信じられないだろう?
私は歩きまわって疲れていたので、その樹の前に座ったら、色んなことを話しかけてきたんだ。
それまでの私の人生や、心の移り変わり。家族のことや仕事のこと。恋人や友人のことなど色んなことを話しかけてきた。
私はその時期に人生のターニングポイントを迎えていたんだと思う。
それまでの生活や、友人、家族。仕事との付き合いなど、全てのことに対して見つめ直す時期だったのだろう。今思えばね。
それから私の人生は変わったよ。
あの樹と話したときから私の中で「見え方」が変わったんだ。
あれからロンドンに出て、それまでよりもさらに充実した人生を送ることができたんだ。
今ではまた、こちらに帰って悠々自適にくらしているがね。
それもこれも全て、あの森と樹々、そしてグリーンマンに会えたからだと思っている。
君は子どもの頃に樹と話したことはないのか? 彼等はいつも話しかけてきているぞ。
街中にいる大勢の知らない人間たちなんかより、彼等の方がよっぽど君のことを気にかけているし、自分を伝えようとしているのがわからないのか?
今後は少しでいいから、樹々たちのことを気にしてみてくれ。話しかけてきているんだから、気付けばいいだけの簡単な話だ。彼等は何故気付かないのか不思議に思っているんじゃないかな”
日本には、皆で桜を見ながら楽しむ花見や、紅葉狩り、または盆栽アートなど、樹々とふれ合う文化がたくさんある。
日本人には、元々グリーンマンが当たり前すぎて、気付かなくなっているだけなのかもしれない。毎日「いってらっしゃい」「おかえり」と話しかけてきている樹が、あなたの家の前にはいないだろうか。
(文=青天青)
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