【死刑囚の実像】長崎ストーカー殺人・筒井郷太との忘れられぬ面会と手紙 ― 無罪妄想か演技か、荒唐無稽な冤罪ストーリー
■怒らないと言いつつ怒る
やがて裁判員裁判の判決を入手できたが、有罪証拠は思った以上に揃っていた。
まず、筒井は事件当時、三重県の実家で暮らしていたが、事件翌日に長崎市内のホテルで警察に身柄確保されている。そして筒井の持っていたバッグからは血痕のついた2本の包丁が見つかり、筒井の着ていた衣服からも血痕が検出されたうえ、これらの血痕のDNA型は被害者のものと一致したという。しかもこの時、筒井は被害者の財布や手帳を所持していた――。
筒井が手紙で、〈僕の今までのコピーの手紙などを見て、どう思いました?〉〈怒らないので正直にお願いします〉と尋ねてきたので、筆者は手紙で正直に伝えた。
(筆者)〈まず、内容がわかりにくかったです。また、最初にお手紙を差し上げた時にお伝えしましたように、私はこの事件では、筒井さんに不利な証拠が揃っているように思っていますが、コピーや手紙を見させて頂いても、まだその思いは変わっておりません〉
すると、次に届いた筒井の手紙では、怒っている雰囲気がひしひしと伝わってきた。
〈最初から、僕の書いたものは嘘だと決めて、まともにわかろうとしていないのでは?〉
〈それに、「筒井さんに不利な証拠が揃っているように思っていますが」と書かれていますが、それは、何の証拠のことを言っていますか? 実際にその証拠を手にして見て、(その周囲の関連証拠も)言っていますか?〉
確かに筒井の言う通り、筆者は有罪証拠の「実物」を手にして見たわけではない。また、警察や検察が証拠を捏造することもないわけではない。しかしこの事件に限っては、警察や検察に筒井を犯人に仕立て上げねばならない事情があったとは考えがたかった。
■無実の訴えは本気か直接質したが…
筆者は、福岡高裁であった筒井の控訴審を傍聴したが、筒井は法廷で「(死刑で)殺されても真犯人が誰かをばらします」と嗚咽を漏らしながら語るなど、逆転無罪に執念を見せていた。一体、どこまで本気で無実を訴えているのか。筆者がこの最大の疑問について、面会室で筒井に直接確認したのは昨年7月のことだ。
――色々筒井さんの書面を見せてもらいましたが、正直、あまり説得力を感じないんです
「(笑みをうかべ)えっ、あれが?」
――要するに筒井さんの主張は、本当は××さん(被害者の身内の人の名前)が犯人なのに、自分はハメられたということですよね?
「それはあんまり関係ないですね」
――じゃあ、何が問題なんですか?
「アリバイの証拠ですね。僕にアリバイがあるという」
――それもよくわからないんですが
「ええっ(笑)」
――本気で自分のことを無実だと思っているんですか?
「思ってるとかじゃなくて、そうなんですけど」
――正直、私はやっはり筒井さんは「やってる」と思うんです
「わざと曲解しているんでしょう」
――証拠を捏造されたと言いたいんですよね?
「違います。そういう質問はいらないッ」
本人に直接確認してみても、筒井が「無罪妄想」に陥っているのか否かは断定しかねた。その後はどんな問いかけをしても「僕をビョーキということにしたいんでしょ」「気持ち悪いんですけど」「曲解されるからもういいです」などと言われ、会話にならなかった。そしてこの日以降、筒井は筆者の面会に応じてくれなくなった。
実を言うと、筒井は精神鑑定で非社会性パーソナリティ障害を有し、事件後の言動には演技性パーソナリティ障害の傾向が含まれると結論されていた。無実の訴えは単なる演技だったのか、それとも――。筆者は今も時折、面会室での筒井の様子を思い出しながら考え込んでしまう。
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