カルト映画レビュー

「イイシラセ イイシラセ」! 清水富美加出演、幸福の科学映画『さらば青春、されど青春。』の矛盾/やや日刊カルト新聞・藤倉善郎

●「霊言」に目覚めたのに“盛り上がらない”中盤の展開… 

「1981年3月23日」、就職を前に大川総裁に霊道が開き、初めて霊界からのメッセージを受け取ったとされている日付が字幕で現れる。

自室で読書している真一。突然、手がプルプル震え出す。鉛筆とメモ用紙を手に取り、3枚のメモ用紙に「イイシラセ」「イイシラセ」「イイシラセ」と書き始める。

 大川総裁が語るエピソードと同じで、突然「自動書記」によって霊界メッセージを受け取ったという描写だ。しかし作中では、真一役の宏洋の演技が下手くそすぎて、普通に自分で「イイシラセ」と書き殴っているようにしか見えない。ただの気がふれた人だ。

 やがて5人の光り輝く霊人が現れ、真一を救世主だと言い、人類のために宗教家になってくれと懇願する。普通なら「オレが救世主? まさか」の一言くらいあってもよさそうなものだ。しかし真一は全くそんな疑問を抱かず、部屋に無断で押し入ってきた光り輝く不審者たちの話を鵜呑みにする。ところが真一の返事は、「でも就職して仕事始めるんでちょっと待って」。あろうことか霊人たちも「お待ちしております」と素直に引き下がる。なんとも盛り上がらない展開だ。

 以降、真一は過去の偉人の霊を呼び出して喋る「霊言」ができるようになる。実家に帰省した際、それを聞いて驚いた父と兄に、「今やって見せてくれ」と頼まれた真一が、日蓮の霊を呼び出す。

日蓮である!

真一の顔が光りに包まれ、ちょっと仏っぽい顔つきになると、父と兄は「おお!」と目を見開いてビックリする。どう見ても、久しぶりに帰ってきた息子・弟の気がふれてしまっていることを嘆く顔ではない。この一家、みんなおかしい。


■遂に清水富美加が登場! ツッコミどころ満載で… 後半

 就職した真一は、なにせ優秀なので、周囲から疎まれていじめられる。それでもニューヨーク支社への出向メンバーに抜擢され、アメリカでバリバリ働く。アメリカ人社員から「これ(書類)チェックして」と頼まれ、「Japan」と書かれている部分を赤字で「Tokyo」と直しただけでアメリカ人から「すごいね!」と絶賛される。

 ここで、アメリカ支社の現地人スタッフが本社に無断でアメリカの銀行からの巨額融資を受けようと画策し、真一が大反対するシーンがある。「本社に無断でやるのはよくない!」とアメリカ人社員を向こうに回して英語でケンカをする優秀なビジネスマンぶりだ。同作を観たある弁護士が、筆者にこう語った。

あのシーンに出てくるアメリカ人社員の行為は典型的な背任。完全に犯罪行為です。なのに真一はその点をまったく指摘しない。そんなことだから司法試験に落ちたんでしょう

 ビジネスでの真一の優秀さは随所に描かれるが、そのすべてが他人へのダメ出し。自分で何かのプロジェクトを成功させるとかすごい契約をとってきたとか、そういった類いのエピソードは一切ない。しかし、社内ではなぜか将来の幹部候補扱いだ。帰国後には名古屋支社に飛ばされる。東京が本社の企業なのに、名古屋に「本社機能がコンパクトにまとまっていて、そこで経験を積むのがエリートコース」というよくわからないセリフで、改めて真一の有能ぶりが強調される。

 そして、作品がもう後半に差しかかろうという頃になって、ようやく清水富美加の登場だ。タクシーに駆け込もうとした真一と、「偶然」ぶつかって出会い、真一が勤める会社の廊下で再会を果たす。「あ、あのときの」というわざとらしい展開だ。清水扮する額田美子は、同じ会社のOLだったのだ。

 ラブシーンは一切なし。繰り返し食事に行ったり映画『いちご白書』を見に行ったりとデートを重ねる。

 美子は、いずれ会社をやめてジャーナリストになりたいと真一に夢を語る。この頃の新一は、日蓮の霊言などを父親と連名で出版する活動を始めていた。副業で本を出すならペンネームにしとけばいいのに本名で出版していたものだから、書店で偶然、美子が書籍を手にして真一の名を見つけてしまう。

 普通ならドン引きするところだが、そうはならない。真一の宗教活動を支えたいと考え、「あなたの夢は何?」「本当のことを言って!」「あなたの人生に私は入れないの?」と真一に詰め寄る。しかし宗教を開いても生活が成り立つのか不安な真一は「愛する女性を幸せにできないなんて我慢できない!」という理由で美子を拒む。

 雨の中、泣きながら走り去る美子。ここで、清水が歌う主題歌『眠れぬ夜を越えて』が流れる。こんな歌詞だ。

〈クリスマスツリーを映した夜のガラス窓に あなたの後光が映っている〉

〈ほしかったのはお別れのキスなんかじゃない ぼくと結婚してくれと ただその一言だけを待っていたのに〉

 雨に濡れて破れかけた『いちご白書』のポスターの脇で、泣き暮れる美子。バンバンの『いちご白書をもう一度』のカラオケ用映像でも見ているような気分だ。あまりに多くのツッコミどころが、すさまじい密度で観る者に襲いかかってくる

 場面変わって、真一の前にまた霊人が現れ「時間がない。早く」と急かし始める。しかし真一は「45歳くらいまで仕事を続けて経済的に安定してからにするのがいいのではないか」と煮え切らない。その真一の背後に、黒い影が。悪魔だ。「そうだ、それが正しい。いま立つべきではない」と口出しする。

 どう見ても、本作の登場人物の中で、悪魔がいちばんマトモなことを言っている。

 しかし真一は逆ギレだ。

「これはきっと悪魔の妨害だ。悪魔が邪魔をするということは、自分が救世主であり、今こそ立つべきなのだということの証明ではないのか!」

 使命感などではない。悪魔の逆張りしときゃいいんだろ的な理屈で救世主として覚醒し、会社を辞め、宗教を開いてしまう。

 そして、宗教団体の第1回講演会。壇上に立つ真一。客席から離れたホールの隅に、書類のファイルのようなものを抱えて立つ美子。教団幹部にでも収まったのだろうか。真一が口を開こうとする瞬間、作品が終わる。


■総評:4回劇場で見てしまうくらい“たまらない”作品だ!

「イイシラセ イイシラセ」! 清水富美加出演、幸福の科学映画『さらば青春、されど青春。』の矛盾/やや日刊カルト新聞・藤倉善郎の画像2藤倉善郎

 従来の幸福の科学映画は、救世主である主人公などが説教をしたり世界観を説明したりする長台詞が続く。しかし『青鯖。』にはそれがない。ストーリーの展開によって作品が進むため、非常に見やすい。その上、微妙なツッコミどころが満載でたまらない。

 幸福の科学映画の新境地でありながら、現時点での最高峰と言っても過言ではないだろう。

 ともあれ、主演の長男・宏洋が公開前に教団のプロダクション社長を退きプロモーションにほとんど登場せず、当初は脚本担当だった三男・裕太が「脚本原案」に格下げされ、その妻・雲母(きらら)も途中でポスターから名前を消されて、作品で登場シーンがカットされたように見える不自然な出演のしかた。何やら大川家内で揉めているようだ。もしかしたら、宏洋主演の教団映画はこれが最後になるかもしれないと思うと、感慨深い。

 幸福の科学では、信者が映画のチケットを何枚も購入して、劇場に何度も入場してくり返し同じ作品を見る信者を「ぐるぐる回転菩薩」と呼ぶ。冒頭で触れた通り、筆者もプレス試写を含め計4回も劇場で鑑賞した。そして今、DVD化が待ち遠しい。

 7月17日に「ロックカフェロフト」で開催される「大カルト音楽祭」では、本作の挿入曲も存分に鑑賞する予定だ。

◇村田らむ・藤倉善郎の「大カルト音楽祭」
ロックカフェロフト
7月17日 OPEN 19:00 / START 19:30
前売(web予約)¥1,500(+要1オーダー以上)
詳細 http://www.loft-prj.co.jp/schedule/rockcafe/90431

文=藤倉善郎

●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
Twitter:@SuspendedNyorai

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