新宿でしか手に入らない「歌舞伎町文学」がヤバい! 本の既成概念を打ち砕く『ヴァイナル文學選書』の理念を制作陣に聞く!(前編)
新宿でしか手に入らない「歌舞伎町文学」とは?
制作チームに聞いた『ヴァイナル文學選書』の理念
■石丸元章、海猫沢めろん、漢a.k.a.GAMI、菊地成孔による競作
来たる10月19日、東京の新宿歌舞伎町を舞台とした4篇の掌編小説が、新宿区限定でリリースとなる。
その名も「ヴァイナル文學選書・新宿歌舞伎町篇」(URLはこちら)。耳慣れないレーベル名もさることながら、なにより目を奪うのは作家陣のラインナップだ。企画人の石丸元章を筆頭に、海猫沢めろん、漢a.k.a.GAMI、菊地成孔と、なんとも強烈すぎる顔ぶれ。この4人が「歌舞伎町」をテーマに、それぞれ1万字強の掌編小説を競作したというのだから事件である。
「歌舞伎町と一口に言っても、そこにどのようなイメージを抱くかは人によって様々。あるものにとっては金の街、あるものにとってはセックスの街、あるものにとっては暴力の街、またあるものにとっては家族とともに暮らしていくための生活の街――。ようするに多面体なんです。こうした街が持つ様々な顔を、作家4人がそれぞれの視点で描く。ヴァイナル文學とはそういうシリーズです」
そう語るのは、ヴァイナル文學選書の企画人でもあるGONZO作家・石丸元章だ。たしかに、歌舞伎町という街はカメレオンのように極彩色である。文学の舞台として、これ以上ふさわしい街というのもそうはなく、さらに上述したクセとアクの強い面々がそんな街を描いたとくれば、気にならないわけがない。
実はヴァイナル文學の特色は「ある街をテーマとする」こと以外にもある。今、筆者の手元には4篇のヴァイナル文學があるのだが、その形状があまりにも異様なのだ。言ってしまえば、本ではない。少なくとも、我々がこれまで本と認識してきた物質とは明らかに違う。そもそも、それは綴じられてすらおらず、文章の印刷された約40枚の紙片がバラ刷りのまま、透明のヴァイナル=ヴィニールに密封されているのだ。
「ある時、ふと思ったんです。本ってなぜ綴じられなければならないのか、と。実をいうとそれって単にページがバラけてしまうのを防ぐためでしかない。たしかに長編作品ともなれば、綴じられていないと相当に不便ですよね。持ち運びも大変。ただ、掌編ならばどうだろうか? このヴァイナルシリーズは、本は綴じられたものという既成概念を打ち砕く、一つの実験でもあるんです」
ヴィニールによる密封については「街の空気を真空パックする」という意味もあると石丸は言う。実際、ヴィニールを開封して内容物たる紙束を取り出してみたのだが、その刹那、筆者はえもしれぬ昂揚感を覚えた。さらには剥き出しになった紙束の手触り、そして、その紙を一枚一枚めくる際の動作感もまた鮮烈。ヴァイナル文學選書、実に“新しい”のである。
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