「数十年も引きずる」トラウマ級に怖い“少女ホラー漫画”を編集者が紹介! 「悪魔(デイモス)の花嫁」や「海の闇、月の影」…95人惨殺も!

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■少女は小学生でホラーの洗礼を受ける

――少女ホラー漫画というのは、ジャンル分けが難しいですよね。

光元  そうなんです。定義というのはないんですが、“少女”と謳うからには、まずは少女漫画誌に掲載されたホラー漫画であること、そして本書が“懐かし本”であるため70〜90年代にかけて発表されたものを中心に取り上げようと考えました。ただ、それだけでは対象を狭めてしまうので、初のホラー漫画誌『ハロウィン』や、大人向けでしたが90年代~2010年まで刊行された『ホラーM』掲載のなかから少女漫画の文脈にある作品にも触れています。そういう意味では、感覚的なチョイスもあり、線引きも曖昧な部分があります。わかりづらくて……すいません。

 今回扱った少女ホラー漫画の多くは、小学校の低学年から読むような漫画雑誌に掲載されていたのが特徴です。『なかよし』『ちゃお』のような小学生対象の雑誌にはホラー作品が今でも掲載されています。『ちゃおデラックスホラー』という増刊も出ているほど人気コンテンツです。昔も今も小学生のときに、多くの少女たちはホラー漫画の洗礼を受けるんです。(笑)

――なるほど。女の子は7、8歳にして、ホラーを知るんですね。

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イメージ画像:「Getty Images」

光元  もちろん普通の少女漫画も読んでいますよ。一部がホラーだったということです。しかも背筋も凍るような恐ろしい……。この本の企画を出すに当たって、背中を推してくれたエピソードがあります。

 くだん書房(東京・神保町)という少女漫画専門の古本屋さんがあって、そこの店主に「少女漫画のホラー作品は、よく動きますね。少女の頃に焼き付いたトラウマ級のイメージが鮮烈で、昔読んだ漫画を読みたいとなると頭に浮かびやすいんでしょうね。大人になって買い求める方が多い」と言われたんです。懐かしの昔の少女漫画の中でも、ホラーは読者にとって十分にフックとなる。需要があると直感しました。

■1986年のホラー専門漫画雑誌『ハロウィン』の衝撃

――少女漫画雑誌のホラーに限らず、ホラー漫画の歴史を簡単に整理していただけますか?

光元  まず、皆さんがホラー漫画と聞くと、「へび女」や「赤んぼ少女」など怪奇と恐怖の第一人者、楳図かずお先生、数多の怪奇を描いた水木しげる先生、大ブームとなった「エコエコアザラク」の古賀新一先生、最近再ブレイクを果たしたホラーの重鎮・日野日出志先生、言わずと知れた「富江」の伊藤潤二先生、「惨劇館」の御茶漬海苔先生、漫画界を席巻した「不思議のたたりちゃん」の犬木加奈子先生というような名前が上がると思います。1950〜60年代当時はホラーというより怪奇漫画ですが、もとをたどれば、つばめ出版『怪談』やひばり書房『オール怪談』などの貸本漫画にいきつきます。楳図かずお先生、古賀新一先生などは、貸本漫画が傾きはじめた頃、少女漫画誌に描くようになって、楳図先生は『週刊少女フレンド』で多くの作品を残しています。古賀先生は『週刊マーガレット』の怪奇漫画の看板でした。実は少女漫画におけるホラー作品の黎明期は、男性漫画家が担っているわけです。当時少年誌や青年誌の漫画誌でも怪奇ものは重要なコンテンツになっていて、ホラー漫画は様々に広がっていきます。今回は、少女漫画のホラーということで、そこは省略しますが……。そして60年代半ばから『週刊マーガレット』でわたなべまさこ先生が怪異を描き始めます。その後、『別冊マーガレット』に美内すずえ先生が登場するんです。70年代以降は『なかよし』に多くの怪奇ものが掲載されました。個人的にトラウマになっているのは、この当時の『なかよし』なんです。「血まみれ観音」、「地獄でメスが光る」、「赤い沼」、などを描いた高階良子先生や「幽霊がり」シリーズの曽祢まさこ先生は怪奇ものの代表作家でした。そして『月刊プリンセス』であしべゆうほ先生の「悪魔の花嫁」が始まり、山岸凉子先生の「天人唐草」など心理的な狂気ものなどが登場します。80年代は、もともとサスペンスミステリーなども人気だった篠原千絵先生『海の闇、月の影』、90年代には関よしみ先生の代表作「魔少女転生」など、本当に数多くの漫画家がホラーやミステリーを手掛けてますね。

 そして、1986年には朝日ソノラマから『ハロウィン』というホラー漫画雑誌が創刊されました。『ハロウィン』は大人向けですが、それまでなかった“ホラー専門”という画期的な雑誌でした。この86年以降、漫画界で一大ホラーブームが巻き起こるのです。1987年には『サスペリア』、88年には『ミステリーボニータ』、90年には『ひとみCCミステリー』が秋田書店から創刊されます。

 さらに87年にはホラー界の大御所作家・犬木加奈子が登場します。彼女が91年から『少女フレンド』に連載した「不思議のたたりちゃん」は、主人公が不思議な力でいじめっ子たちにお仕置きするホラー漫画として人気を博しました。その後創刊された『サスペンス&ホラー』の表紙は、ほぼ犬木先生のイラストで、一時期はあらゆるホラー雑誌の表紙を飾っていたほどです。犬木先生は「石を投げると水面に波紋が広がる感じ」と当時を振り返っていますが(本書によるインタビューより引用)、間違いなくホラーの女王でした。

 その後、91年には『眠れぬ夜の奇妙な話 ネムキ』が発行され、93年創刊の『ホラーM』や97年発売の『ザ・ホラー』などいずれも大人向けに、より激しく、残虐な表現が競い合うように出てきます。これらは成人向けですから、少女漫画のように女の子を主人公にするなどの縛りもなく、スプラッタ、血みどろ、無差別、不条理な狂気などが誌面を踊り、ザッツ、ホラー漫画という内容でした。本書では、『ハロウィン』『ホラーM』『ネムキ』から作品を紹介していますが、少女漫画を出発点としたセレクトを意識しています。

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 ただ、そんなホラー漫画ブームにも二度の転換点があります。一つは、89年の宮崎勤の幼女連続誘拐殺害事件です。宮崎が、ホラー映画に影響を受けたという報道により、過激表現に規制がかかります。少女漫画は、対象年齢が低いことから、各出版社は表現の規制を自主的にしていたのを覚えています。より激しい新しい表現を求めていた女性向けのホラー漫画が、どんどんレディース誌に移っていったのは、事件の影響ですね。そして97年の神戸連続児童殺傷事件(通称:酒鬼薔薇事件)です。これを境として、現実が創作であるホラーを超えてしまったところはあります……。事件後のホラー漫画の暴力シーンへの批判も業界を揺るがしましたね。その後、2010年頃までにほとんどの専門雑誌が休刊してしまいました。実話恐怖漫画以外では、『Nemuki+』(朝日新聞出版)や『ミステリーボニータ』(秋田書店)が、今も女性向け創作ホラー漫画にこだわり続けています。

 ただ、少女漫画のジャンルでは、ミステリーやホラーは大人気で、大人たちが小学生を本気で怖がらせようと頑張っていますよ!

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