元エロ本編集者が語る「バイブレーター」が入ったバッグで職質を受けてトンでもないことになった話
2021.10.18 12:00
昭和天皇が崩御し、平成に移り変わった直後の冬の出来事である。
歌舞音曲は自粛され、街のネオンは消され、ぽつぽつと開いている商店街の灯りも薄暗い、寒々としたお茶の水の夕暮れ、私は帰宅するため駅へと歩いていた。肩に重いバッグを下げて。
学生運動のなごりから、まだ左翼の立て看板が乱立する明治大学の正門前に来たとき、いきなり私服刑事2人に職質を受けた。
バッグの中身を見せてくれと言う。
一瞬ためらったが、意を決してバッグを開いて見せた。
セーラー服。女子体操着。数点のカラフルなブラジャーとショーツ。ソックスに靴(ローファー)。縄。さるぐつわ。手錠。バイブレーターが1本。
みな、翌日の撮影道具である。
あきらかに刑事たちは動揺したが、それでも無理やり表情を押し殺し、これは何だと訊いてきた。私は素直に、自分はエロ本の編集者で、これは撮影道具だと説明し、名刺を見せた。
すると年かさの刑事が「これは?」と、バイブレーターを指差した。
それは紫色をした半透明の、社内にあるもの中でも1番の極太バイブレーターだった。
「バイブレーターですよ」
「動くの?」
「はあ、動きますよ」
「じゃあ、動かしてみて」
「えっ、ここで?」
私はあたりを見渡し、それから背の高い若いほうの刑事の顔を見た。魚のように無表情である。
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