死んだ息子の精子で出産を望んだ母=インド

 2018年、病魔に侵された息子の精子を抜き取り、その精子をもとに”息子のコピー”を作ったインド人女性が話題に。近年、インドで社会問題になっている代理出産によって、息子の遺伝子を持つ赤ちゃんを手に入れた彼女は、周囲に孫ができたことを祝福されるたびに「息子が生まれ変わって戻ってきたのだ」と訂正を重ねてきた。

 2015年には商業化の脱却を図るべく、同国の女性を対象とした外国人による代理出産が禁止されるなど、政府も規制強化に踏み切ったタイミングでの不妊を理由としない出産だけに、世間の風当たりは相当強かった様子。しかし、彼女は周囲から向けられる好奇の眼差しや激しい非難に耐えながら、子育てを続けているという。気持ちはわからなくもないが、考えさせられる一例として当時の記事を再掲する。

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※ こちらの記事は2018年4月5日の記事を再掲しています。

 「死んだ息子の生まれ変わりがほしい……」。脳腫瘍に侵された息子の存命中に精子を抜き取り、息子の死後、その精子を使い代理母に息子の“コピー”を産ませたインド人女性がいる。彼女は現在、世間からの好奇の眼差しを浴びながら「息子の息子」を「息子として」大切に育てている——。

「息子が生まれ変わって戻ってきた」

 この母親は49歳。50歳手前の更年期であることから自分で妊娠することを諦め、卵子を提供してくれるドナーを探し、妊娠と出産もそのドナーに任せたという。

 生まれてきたのは厳密にいうと孫にあたるが、息子を一度失ったこの母親はこの孫を息子だと思い込み、二度と先に死なせるものかとの信念で育児に励む日々を送っている。生まれるからには長生きさせよう、という思いが働いたのか、息子の投薬治療が始まる前に精子を抜き取ったという。

死んだ息子の精子で出産を望んだ母=インドの画像1
画像は「Daily Mail」より引用

 これだけでも十分特異な話だが、さらにすごいのは、この息子自身が生前「出産は、母か姉妹にお願いしたい」と自ら指名し、自分のコピーを作ることに同意していたことだ。2013年の出来事である。

 息子によるこの願いはかなわなかったとはいえ、一般の想像をはるかに超えたこの親子の世界観がインド中の国民をざわつかせた。息子は、余生をエンジニアの勉強に費やし修士号を取得し、体が弱ってきたところで本格的な治療に入った。

 いったん治療はうまくいったものの、約3年後の2016年、ついに息子は他界した。そして、その約1年後、母親は息子の息子を作る決心をした。そう、卵子のドナー探しだ。

 母親はこう振り返る。「金銭的にも大変苦労しましたが、私は覚悟を決めました。同じ息子を作らなきゃって」。いざ生まれると、みな彼女に「孫」ができた、と喜んだが、彼女はその都度「息子ができた、生まれ変わって戻ってきた」と訂正を口にしたという。さすがに、これには親戚からも非難を浴び続けた。しかし、彼女は耐え忍び現在に至る。

死んだ息子の精子で出産を望んだ母=インドの画像2
画像は「Daily Mail」より引用

インドでは“代理母ビジネス”が巨大市場化

 この出産を手がけた医師は、「科学の進歩のおかげで、また一人、人を幸福にすることができた」と喜びもひとしおだ。「愛息を失った母親の強い意志と幾多の困難の末につかんだ幸せを、心から祝福したい」。医師の笑顔には一点の曇りもない。

 インドでは「子宮貸します」と代理母出産ビジネスが巨大市場化しつつあり、社会問題となっている。実際は倫理面で多くの議論を呼んでおり、ついにインド政府は段階的に歯止めをかけようと規制強化に踏み切っている。そんななか、今回の一件は不妊に悩む女性からの依頼ではなく、「息子のコピーを作り、息子として育てる」のが目的であることから、世間の風当たりはなおさら強いようだ。

死んだ息子の精子で出産を望んだ母=インドの画像3
画像は「Daily Mail」より引用

 それでも、この母親はこの乳児を若くして逝った息子と同じ名前で呼び、息子のコピーを抱きながら楽しく暮らしている。


参考:「Daily Mail」、ほか

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文=鮎沢明

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